経年変化の魅力の伝え方|強みを「自分ごと」に変える

「この変化の良さを、どうやって"素敵でしょう"ってお客さんに伝えたらええんやろう」
ある打ち合わせで、そんな相談を受けました。使い込むほど表情が育っていく——その会社さんが一番こだわっている強みの話です。
その会社さんの一番の強みは、独自の経年変化を作れること。どの金属も使い込むほどに表情が変わっていく。でもそこに独自の要素を足すことができます。新品のときとはまた違う、時間が育てた味わいが出てくる。作り手として、ここは絶対に外したくない、というこだわりでした。
ある打ち合わせで、こんな相談がありました。「この変化の良さを、どうやって"素敵でしょう"ってお客さんに伝えたらええんやろう」と。
これ、すごくいい問いやなと思ったんです。そして同時に、商品開発をやっていると本当によく出くわす場面でもあって。今日はその話を書いてみます。
先に言うておくと——強みって、そのまま言葉にしただけでは、なかなか伝わらないんですよね。「経年変化します」と正直に伝えても、聞いた人には「で、それが私に何の関係が?」で終わってしまう。
伝わるようにするには、その強みが「自分にどう関係するか」のところまで、こっちで翻訳してあげる必要がある。
「経年変化します」は、なぜか他人事に聞こえる
これも話に出たんですけど、経年変化って、突き詰めると「金属が変化する」という現象なんですよね。
で、この「金属が変化します」をそのまま伝えても、なんだか他人事に聞こえてしまう。
なぜかというと、それはモノの側に起きることの説明であって、聞いてる本人には関係ない話に聞こえるからです。
作り手にとっては、何年もかけてたどり着いた誇りのポイントです。でも、初めてそれを聞く人からすると、「ふーん、変化するんや」で止まってしまう。すごさが、すごさのまま宙に浮く。
これ、経年変化に限った話じゃありません。「うちはこの加工がすごい」「この素材にこだわってる」——どれも作り手には大事な強みなんですが、そのまま並べても、聞く側には「だから何?」が残りがちなんです。
「いいところ」の、もう一段先まで降りていく
じゃあどうするか。
強みをそのまま言うんやなくて、「それが、使う人にとって何になるのか」を一段ずつ掘り下げていきます。
さっきの経年変化で言うと、こんな感じです。
「金属が変化する」。これは、ただの現象。
じゃあ、それの何がいいのか。「使うほどに表情が出て、味わいが増す」。ちょっと近づいた。
で、それがその人にとって何になるのか。「自分の使い方で、自分だけの一点に育っていく」。もう少し自分の話になってきた。
さらにその先。「何年も一緒に時間を重ねて、手放せん相棒になっていく」。ここまで来ると、ようやく自分の暮らしの話として聞こえてくる。
「いいところ」を一個見つけて満足せず、「で、それが自分にどう効くの?」を、もう一段、もう二段と繰り返していく感じです。
最初の一段は、わりと誰でも出せるんです。問題はその先。そこを面倒くさがらずに降りていけるかどうかで、伝わり方がぜんぜん変わってきます。
こうやって、モノの性能の話を、だんだん「使っている人の暮らしの話」に寄せていく。そのとき出てきた言い方を借りるなら、使い手の物語に翻訳していく、という作業です。
同じことを言ってるのに、刺さり方が真逆になる
おもしろいのが、この翻訳って、起きている現象そのものは何も変えてないんですよ。
こんなやりとりもありました。経年変化を一言で言おうとして、「共に劣化していく」って言いかけて、いや、それはちゃうよな、と。
そうなんです。「この製品は、使うほど劣化します」と言われたら、誰も欲しがらない。
でも「この製品は、あなたと一緒に歳を重ねていきます」と言われたら、ちょっと欲しくなる。
起きていることは、まったく同じなんです。金属が時間とともに変わっていく、というだけ。事実は一ミリも盛ってない。変えたのは、それをどう言葉にするか、だけ。
それだけで、他人事が自分ごとに変わる。「劣化」も「育つ」も同じことを指してるのに、受け取る側の気持ちは正反対になる。
強みを伝えるって、すごい新しいネタを足すことやと思われがちなんですけど、実はこの「同じことを、どう翻訳して差し出すか」のほうが効いてくる場面が多いんです。
これ、たぶんあなたの商品でも同じです
ここまで経年変化の話をしてきましたけど、たぶんこれ、読んでくれてるあなたの商品でも同じことが起きてます。
「うちはこの技術がすごい」。それ、そのまま言うてませんか。
すごいのは間違いないんです。でも、その"すごさ"が、買う人の暮らしの何に効くのか。そこまで一段、二段、翻訳できているか。
たいていの場合、作り手は自分の強みに近すぎて、すごさをすごさのまま出してしまうんですよね。中にいると、それがもう当たり前になってるから。「これの何がいいか、いちいち説明いる?」って感覚になってる。
でも、初めて出会う人にとっては、その翻訳がないと、ずっと他人事のままなんです。
——さて、あなたの一番の強みは、ちゃんと「自分ごと」の言葉になってるでしょうか。
おわりに
商品の強みって、見つけた瞬間に「よし、これでいける」と安心してしまいがちです。
もちろん強みがあるのは大前提なんですけど、その手前で——というか、その先で、「それが使う人の何になるのか」まで翻訳しておかないと、せっかくの強みが他人事のまま素通りされてしまう。
そして、この翻訳、当事者だけでやろうとすると、けっこう難しいんですよね。自分たちの強みは、近すぎて見えにくい。何がどう「いい」のか、中にいると言葉にしづらい。
冒頭の金属加工の会社さんとのブランドづくりでも、まさにここを一緒に行ったり来たりしている最中です。「この変化を、どう自分ごとにするか」を、言葉をひとつずつ置き換えながら探っていく。その作業を、隣で何度もやってきました。
僕は、商品の企画やデザインのお手伝いをするときも、社内のチームに伴走するときも、こういう「強みの翻訳」を一緒にやることが多いです。自分たちのすごさがうまく言葉にならへんときは、たいてい強みが足りひんのやなくて、まだ使う人の言葉に置き換えきれてないだけやったりします。すでにある強みを、どう伝わる形に変えていくか。その整理から一緒にやれると思います。
この記事は、実際の打ち合わせをもとにしていますが、お相手の会社名やブランドの内容は伏せています。
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