会社の歴史や技術は、ブランドストーリーに使えるか|縛られない使い方

長く続いてきた会社が新しいブランドを始めるとき、ほぼ必ず出てくる一手があります。
「うちには長い歴史と、ちゃんとした技術がある。それをブランドストーリーの軸に据えよう」というやつです。
気持ちは、すごく分かります。せっかくの財産やし、使わへん手はない。実際、歴史や技術は強い武器になります。
ただ、その武器の"置き場所"を間違えると、せっかく始める新しいブランドの方が窮屈になってしまう。先日、長くものづくりをやってこられた会社さんとまさにこの話になったので、書いておこうと思います。
先に結論だけ言うておくと、歴史も技術も「捨てる」必要はまったくない。ただ、それを看板の真ん中に飾るか、奥に効かせるかで、ブランドの自由度がけっこう変わる、という話です。
歴史や技術は、たしかに強い背景になる
まず、ここははっきりさせておきたいんですが、歴史や技術は持っているなら使った方がいいです。隠す理由はない。
長く続いてきたという事実や、積み上げてきた技術は、それ自体が「ちゃんとしてますよ」の証拠になります。言葉で「品質には自信があります」と百回言うより、背景にある歴史と技術がそれを勝手に裏づけてくれる。
たとえば、展示会のブースで、ふだん工場でやっている手仕事を、その場で実演して見せる。型を削るような、作り手にとっては当たり前すぎる工程です。でも、業界の外の人やバイヤーから見ると、これがめちゃくちゃ効く。「ここまで手をかけてるんや」というこだわりの証明が、言葉じゃなく目の前で起きるからです。
歴史も技術も、こういう「効くエビデンス」になる。だから財産であることは間違いない。
でも「主役」に据えると、縛られはじめる
財産やからといって、それを看板の真ん中に置いて主役にすると、今度はそれに縛られはじめます。
ありがちなのが、「創業◯◯年、受け継いだ伝統の技を守り続けて——」みたいな一文を、新ブランドの顔にしてしまうパターン。一見、立派です。でもこれを主役にした瞬間、歴史が"守るもの"に変わる。
そうなると、新しいことがやりにくくなるんですね。攻めた案が出てきても、「いや、それはうちの伝統と違うから」とブレーキがかかる。本当は自由に振り回せたはずの新ブランドが、過去の看板に合わせて動くようになる。財産のはずが、足かせになってしまう。
もう一つ、温度の問題もあります。新しいブランドを始める動機って、本当のところは「面白そうやから作りたい」だったりする。なのに歴史を主役にすると、「伝統の価値を世に広めるために」みたいな、後付けの大義名分が前に出てくる。立派なんやけど、なんか急に他人事みたいに冷める。作り手の今の体温より、過去が前に来てしまうんです。
背景に置く、という距離の取り方
じゃあどうするか。歴史や技術は"前面"じゃなくて"奥"に置く、という距離の取り方が、いちばんしっくりきます。
前に出すのは、その商品ならではの強みや特徴。他とは違う、この質感やこの変化が面白いんです、という商品そのものの魅力です。それをまず前面で見せる。
歴史や技術が効くのは、その先です。商品に興味を持った人が「なんでこんなことができるの?」と思ったとき、はじめて「実は、長いことこの技術をやってきてまして」と背景を出す。先に能書きとして並べるより、ずっと深く刺さります。
順番なんですよね。前に出すのは、いま作っている商品の良さ。歴史は、聞かれてから効く。主役はあくまで今の商品とその世界観で、歴史と技術はそれを後ろから支える背景。この役割を取り違えないことが、距離の取り方の芯だと思っています。
ちぐはぐな部分こそ、隠さず効かせる
もう一つ、打ち合わせで面白かったのが、「ギャップをどう扱うか」という話でした。
年季の入った工場と、これから立ち上げる洗練されたブランド。並べると、正直ちぐはぐに見えることがあります。きれいな世界観を作りたいほど、古びた現場を隠したくなる。
でも、たぶん逆なんですよね。
その年季こそ、本物が積み上がってきた証拠やったりする。隠すより、「この秘密基地みたいな現場から、あれが生まれてるんです」と見せた方が、ギャップそのものが魅力に転ぶ。これも結局、歴史を看板の主役にはしないけど、奥にある本物として、見せどころで効かせる、という同じ話です。
財産は、飾るものじゃなくて、効かせるもの。そう考えると、扱いがだいぶラクになります。
おわりに
歴史と技術は、間違いなく財産です。新しいことを始めるからといって、わざわざ封印する必要はない。
ただ、その財産を"看板の真ん中"に据えて主役にするか、"奥"に置いて背景として効かせるか。ここで、新しいブランドの息のしやすさが変わってきます。
主役は、いま作る商品とその世界観。歴史と技術は、聞かれたときに深みを足してくれる背景。距離を取って、効かせどころで出す。それくらいの付き合い方がちょうどいい、と僕は思っています。
とはいえ、これがなかなか自分たちだけだと難しい。長くやってきた会社ほど、自分の歴史や技術が"当たり前"になりすぎていて、どこをどう効かせると外の人に刺さるのか、近すぎて見えにくいんですよね。
僕は、商品の企画やデザインのお手伝いをするときも、社内のチームに伴走するときも、この「持っている財産の、どこを背景として効かせるか」を一緒に整理するところから始めることが多いです。もし、うちの歴史や技術をどう使えばいいか決めかねている、というところで止まっているなら、その整理から一緒にやれることもあると思います。よかったら、気軽に声をかけてください。
この記事は、実際の打ち合わせをもとにしていますが、お相手の会社名やブランドの内容は伏せています。
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