ものづくりのブランディング|ブランドの世界観は、商品の外側でも決まる

写真、サイト、売り場の3か所に同じ商品が同じ姿で並び、ブランドの世界観を外側の接点でそろえることを表した手描きイラスト
打ち合わせの雑談で、ある建物の話になりました。その会社さんの敷地に建っている、門構えのある古民家みたいな一棟です。「ここの玄関で商品を並べて売ったら、それだけで雰囲気が出ますよね」と、その場が盛り上がったんです。インスタ映えもしそうやし、休みの日にこっそり開けてSNSで告知しても面白い、なんて話まで出て、僕もいいなあと思って聞いていました。
しかも、その建物、奥ではずっと機械が動いていて、金属を打つ音が鳴り響いているんですよね。
このちぐはぐさが、実はけっこう大事な話につながります。ブランドの世界観って、商品そのものだけで決まると思われがちですが、実際にはこういう"外側"、つまり建物やサイト、人に渡す写真といった接点ぜんぶで、じわじわ決まっていくものなんです。

知らないところで、世界観は崩れていく

ブランドの世界観がいちばん崩れやすいのは、自分たちの手を離れたところです。
たとえば、展示会に出て反応が良かったとします。すると卸先やメディアの人から「写真ください」「販促物ください」と声がかかる。ここで、手元にある間に合わせの画像をとりあえず渡してしまうと、その素材がそのまま世に出回っていく。そして、それを見た人にとっては、それがブランドの第一印象になってしまうんです。
自分たちがどれだけ商品を作り込んでも、外に出ていく写真がちぐはぐだったら、伝わる世界観もちぐはぐになる。だから、人に渡す素材こそ、こちらできちんと作っておいて、「使うならこれを使ってください」と渡せる状態にしておくほうがいい。
打ち合わせで、こんな話も出ました。営業さんが良かれと思って、商品をスーパーへ持ち込んで、「置いてください」と掛け合ってくることがある、と。そこでスーパーが「うちでは置けません」と断ってくれたら、まだいい。でも、その人が頑張って話をつけて、「置いてきましたよ」と嬉しそうに報告してきたら、どうでしょう。こっちは怒るに怒れないし、今さら引き上げてくれとも言いにくい。
善意なんですよね。悪気はまったくない。でも、どこで・どう並ぶかを手放してしまうと、そのブランドがどう見えるかも、一緒に手放すことになる。世界観って、こういう「どこに、どう並ぶか」みたいな地味なところから崩れていくんやなあ、と改めて思いました。

サイトは、動かしすぎると商品が消える

外側の接点で、いちばん力を入れたくなるのがサイトです。
最近は、動きのある凝ったサイトがたくさんあります。スクロールすると要素が動いたり、商品がくるくる回ったり。ああいうのは見ていて面白いし、作り手としてもやってみたくなる。
でも、ここにも落とし穴があって。動かすこと自体が目的になって、肝心の商品が動きの中に埋もれてしまうことがあるんです。演出が主役になって、売りたいものが脇役になる。これは、なかなかの諸刃の剣です。
大事なのは、演出の量をブランドの世界観に合わせること。
たとえば、静かで渋い世界観のブランドなら、にぎやかに動き回るサイトは、そもそも合っていない。むしろ、ほとんど動かず、無口なくらいのほうが「らしさ」が出る。逆に、にぎやかで元気なブランドなら、動きがあったほうが世界観に乗る。
つまり、サイトで問うべきは「どれだけ格好いい演出ができるか」ではなくて、「この演出は、うちの世界観に合っているか」なんです。足せば足すほど良くなるわけではない。ここでも、そろえる意識が効いてきます。

その気になれば、工場も実演も「売り場」になる

接点は、世界観を崩さない・足しすぎないという"守り"だけのものではありません。その気になれば、攻めの武器にもなります。
冒頭の、機械の音が鳴り響いていた建物。あれも、見方を変えれば立派な接点です。門構えのある建物で商品を並べれば、それだけで「このブランドはこういう空気なんだ」と伝わる。ここで渡っているのは商品の説明ではなくて、その場の空気のほうです。
ものを作っている現場そのものも同じです。職人さんが手で型を削る工程なんかは、業界の中では当たり前でも、外の人はつい見入ってしまう。ただ、見せたいのは技のすごさではないんですよね。見た人が「こういうところで作られてるんや」と、どんな空気を持ち帰るか。そこまでが接点です。商品の外側に、まだ使っていない接点はけっこう眠っているんです。
ただ、ひとつだけ。冒頭のプレス音を思い出してください。
門構えの建物は雰囲気があるけれど、奥では機械がうるさく動いている。この現実とセットで考えないと、絵に描いた世界観になってしまう。接点を広げるのはいいことですが、現場の地に足のついた事情まで込みで設計しないと、きれいごとで終わる。攻めるときほど、そこは冷静に見ておいたほうがいいと思っています。

そろえるのは「印象」であって、やり方じゃない

こうやって接点を並べていくと、「全部きっちり統一しないといけないのか」と、しんどくなるかもしれません。でも、そういう話ではないんです。
たとえば、ブランドを「育てる」と言っても、その育て方には幅があります。スパルタに厳しく育てるのも、いい子いい子と手をかけて育てるのも、どっちも育て方。そこは、やり方の好みでいい。
そろえないといけないのは、やり方そのものじゃなくて、お客さんが受け取る「印象」のほうです。「このブランドってどんな感じ?」と聞かれたとき、あっちでは厳しそう、こっちでは甘そう、と答えがバラけてしまうと、世界観がぼやける。逆に、サイトも、渡す写真も、売る場所も、受け取る印象さえ同じ方向を向いていれば、細かいやり方は多少違っても、ちゃんと「らしさ」は立ちます。
だから、外側の接点を見直すときの物差しは、ここに置くといいと思います。「これは、うちの印象と同じ方向を向いているか」。

おわりに

ブランドづくりというと、つい商品そのものを磨くことに気を取られます。もちろんそれが本丸なんですが、その商品が届くまでには、サイトや写真や売り場という"外側"を必ず通っていく。そこがそろっていないと、せっかくの中身も、ちぐはぐに伝わってしまう。
たとえば、こんなところで引っかかっていないでしょうか。
  • 商品はいいのに、サイトや資料にすると、なぜか世界観がバラけて見える
  • 卸先や取引先に素材を渡すとき、どこまでこちらで管理していいのか分からない
  • 「世界観を一貫させましょう」と言われても、結局なにをそろえればいいのか曖昧
どれも、接点をひとつずつ「うちの印象と同じ方向か」で見ていくと、少しずつほどけていくことが多いです。
商品そのものがよくできていても、その外側で世界観が崩れることはあります。サイトや、人に渡す写真や、売り場を、どうそろえるか。僕はそこまで含めて一緒に見ていくことが、けっこうあります。中身はできているのに、外側でちぐはぐになっている。そんなときは、どこから手をつけるかを整理するところから、一緒にやれることもあると思います。よかったら、気軽に声をかけてください。

この記事は、実際の打ち合わせをもとにしていますが、お相手の会社名やブランドの内容は伏せています。