アイデアが出尽くして前に進まない、あの「迷走状態」の正体

バラバラの形が、中央の緑のかたまりに四方八方から集まってくる手描きイラスト
「増えた分、なんか迷走してるんすよ」
画面の向こうで、相手の方が苦笑いしていました。一緒に新しいブランドを育てているものづくりの会社さんで、その日は宿題にしていた「自分たちのこだわりや強みの書き出し」を見せてもらう回でした。
前回より、作業は明らかに進んでいました。こだわり、強み、大事にしたい雰囲気。要素はどんどん書き出されて、ボードはびっしり埋まっている。出てくること自体は、すごくいいことです。
なのに、本人たちの手応えは逆でした。やればやるほど、前に進んでる気がしない。むしろ霧が濃くなっていく感じ。
これ、商品開発やブランドづくりの現場で、本当によく出くわす場面です。今日はこの「出し尽くしたのに、進まない」状態の正体と、そこから抜ける道の話をしてみます。

要素を出し切っても、動けないのはなぜか

先に言ってしまうと、この迷走は「今の手持ちは、だいたい出し切ったサイン」だったりします。悪い兆候じゃなくて、ただ次の段階に来ただけ。
ものづくりの最初って、とにかく広げる時期があります。こんな見せ方もいい、こういうこだわりもある、あの強みも使える。頭の中のものを、全部ボードに吐き出していく。これを発散と呼んだりします。
発散はやってて気持ちいいんですよね。アイデアが増えるほど、前に進んでる感覚もある。
でも、ある時点から景色が変わります。要素は十分あるのに、並べて眺めても「で、結局うちは何なん? これから何をしたらいいん?」の答えが出てこない。ここが、さっきの迷走です。
なぜ動けないのか。出した要素は、まだ"材料"でしかないからです。それも、自分たちの頭の中にしかない、散らばった材料。「うちはこういうものです」と人に一言で言える形には、まだなっていない。
材料がいくつかあるだけの状態だと、具体的な行動には移せません。何から作るかも、どう見せるかも決まらない。だから手が止まる。

「収束」は、一度むりやり一言にまとめてみること

じゃあどうするか。僕がこういうとき必ずお願いするのが、一度「収束」させてみましょう、ということです。
収束って言うと難しく聞こえるけど、やることはシンプルです。散らばった要素を、一回むりやり「うちはこういうものです」と一言にまとめてみる。それだけです。
肝心なのは"むりやり"のところ。完璧な答えを出そうとしなくていい。「現状ではこうかな」くらいでいいんです。
この一言で、最終的なコンセプトを決めるわけじゃないんです。今どこが足りていないのかを見るための、仮の置き場みたいなもの。
というのも、要素を出し続けるのは、実は作っている側の満足なんですよね。自分たちのためのメモ。それを、社外の人に一言で紹介できる状態にまとめて、はじめてブランドの輪郭が見えてくる。出すことと、まとめることは、別の作業なんです。

絞ると、足りないものが見えてくる

ここがいちばん伝えたいところです。
一度むりやり一言にまとめると、不思議なことが起きます。
「あれ、大事だと思ってたこの要素、別に要らんかったな」と気づいたり。逆に「この一言を支える肝心なピースが、ごっそり抜けてる」と見えてきたり。
散らばったまま眺めていたときには、絶対に見えなかったことです。
つまり収束って、きれいに完成させる作業じゃないんです。"次にどこを掘ればいいか"を浮かび上がらせるための作業。むりやり絞るからこそ、足りない場所が輪郭でわかる。
だから一発でいい答えが出なくても、まったく問題ない。むしろ出ないのが普通です。

発散と収束は、何回も行き来する

そうやって足りないものが見えたら、また広げにいきます。抜けてたピースを埋めるために、もう一回発散する。そしてまた絞る。
広げて、絞って、また見えてきたものを広げて、また絞る。この行ったり来たりを繰り返すうちに、ぼんやりしていたブランドの像が、だんだん解像度を上げていきます。
一回の収束で完成させようとすると、しんどい。「これで決まりだ」と気負うほど、絞るのが怖くなります。大事なものを捨ててしまう気がするからです。
でも、収束は一回きりの決断じゃなくて、何度も通る通過点だと思えば、わりと気楽に絞れます。違ったら、また広げればいい。それだけのことです。

モヤモヤは、自分たちで言い切るまで消えない

この霧みたいなモヤモヤは、誰かが外から晴らしてくれるものじゃないです。自分たちで「うちはこういうことだよね」と一回言い切らない限り、ずっと残る。
そして、作っている自分たちがモヤモヤしたままだと、お客さんに伝わるわけがない。筋の通った説明が、できないからです。
だから、出し尽くして手が止まったときこそ、新しいアイデアを足しにいくより、一回ぎゅっと絞ってみてほしいなと思います。

おわりに

ものづくりの最初は、つい「たくさん出すこと」そのものが楽しくて、夢中になりがちです。
もちろん、広げる時期はちゃんと要ります。でも、出し尽くしたあとに一回ぎゅっと絞っておくと、ばらけていたものが急に動きはじめる。迷走して手が止まったときほど、効いてきます。
とはいえ、この収束、当事者だけでやるのがいちばん難しいのも事実です。自分たちのことは近すぎて、どれが芯でどれが飾りか、見分けがつかなくなるんですよね。
たとえば、こんな手前で止まっていないでしょうか。
  • こだわりや強みは出し切ったのに、ひとつの形にまとまらない
  • 要素はたくさんあるのに、何から動けばいいか決まらない
  • 自分たちが何屋なのか、一言で言えそうで言えない
どれも、まだ収束を一度も通っていないときに起きやすいことです。
冒頭のものづくりの会社さんとのブランドづくりでも、まさにここを一緒に行ったり来たりしている最中です。散らばった要素を一回絞っては、また広げる。その繰り返しの中で、ぼんやりしていた像が、少しずつくっきりしてきます。
僕は、商品の企画やデザインのお手伝いをするときも、社内のチームに伴走するときも、この「散らばった要素を一回絞ってみる」ところを一緒にやることが多いです。もし似たような場所で止まっているなら、その整理から一緒にやれると思います。よかったら、気軽に声をかけてください。

この記事は、実際の打ち合わせをもとにしていますが、お相手の会社名やブランドの内容は伏せています。