商品開発のコンセプトの決め方|「やらないこと」が軸になる

先日、あるブランドづくりの打ち合わせをしていて、改めて「これだよなあ」と思ったことがあったので、書いておこうと思います。
金属加工をされている会社さんと、新しいブランドを一緒に立ち上げている最中の話です。打ち合わせを重ねるうちに、「こんな商品も作れる」「あんな見せ方もいい」とアイデアがどんどん出てきました。
出てくること自体は、すごくいいことです。でもある日、ふと、こういう空気になったんです。
「アイデアはいっぱいあるのに、なんか、どれを選んでいいか分からへんね」と。
これ、商品開発をやっていると本当によく出くわす場面で。今日はその話をしてみます。

アイデアは、多いほど決められなくなる

ふつう、選択肢は多いほうがいい気がしますよね。でも商品開発の現場では、むしろ逆のことがよく起きます。
アイデアが増えれば増えるほど、「で、結局どれをやるの?」が決められなくなる。
なぜかというと、どれもそれなりに良く見えるからです。Aもいい。Bも悪くない。Cも面白い。全部それぞれに魅力があると、優劣がつけられません。かといって全部やる余裕はない。それで手が止まってしまう。
打ち合わせをしていたその会社さんも、まさにこの状態でした。材料は揃っているのに、前に進めない。
このとき足りないのは、「もっといいアイデア」ではありません。選ぶための物差しです。

おにぎり屋さんが、カレーを売らない理由

ここで、打ち合わせの中で出てきたたとえ話を一つ。これが分かりやすいと言ってもらえたんです。
たとえば、あるおにぎり屋さんが「手で握る、まごころを込めて」という看板を掲げているとします。手で握ること、その真心を大事にする。そういうお店だと、最初に決めて打ち出しているわけです。
この一言があると、新しいメニューを出すかどうか、迷わず判断できるようになります。
もしこのお店が「カレーはじめました」と言い出したら、ちょっと「ん?」と思いますよね。おいしいかどうかの前に、「握ることと関係ないやん」と引っかかる。掲げた看板と合っていないからです。
じゃあ「とんかつ」はどうか。これも一見、握ることとは関係なさそうです。
ところが、もし「この衣は、機械だと均一につけられない。人が手のひらでしっかり押さえて、はじめてちゃんと肉につく。だからこそのおいしさなんです」という話だったら、どうでしょう。急に「あ、それならこの店が出してもおかしくない」と思えてくる。看板に掲げた「手で握る」という姿勢と、ちゃんとつながるからです。
最初に芯を一言で決めておくと、一見遠そうな商品まで「これはうちらしい」「これは違う」と判断できるようになる。
逆に看板がないと、カレーもとんかつも「まあ、やってみてもいいんじゃない?」と何でもアリになって、結局その店が何屋さんなのか分からなくなっていきます。

じゃあ、カレーは本当にダメなのか

ここまで読んで、ちょっと意地悪なことを考えた人がいるかもしれません。「さっきダメって言ったカレーは、もう永遠に出せないの?」と。
実は、そうとも限らないんです。
たとえば「手で握るのと同じで、このカレーもひとつひとつ手間をかけて、機械に頼らず人の手で仕込んでいます」——そんな理由がちゃんとあったら、どうでしょう。「手をかける」という芯とつながって、急に「このお店のカレー、ちょっと食べてみたいかも」と思えてくる。
つまり、ダメなのは「カレーそのもの」じゃなかった。芯とつながる理由がないまま、なんとなく出すのがダメだっただけ。逆に言えば、芯さえ通っていれば、一見いちばん遠そうなものほど、面白い一品になったりします。
考えるのが、ちょっと楽しくなってきませんか。

キャッチコピーは、飾りじゃなかった

ここまで読んで、気づいた方もいるかもしれません。この「お店の芯」にあたるものが、いわゆるキャッチコピーです。
キャッチコピーというと、広告に載せるカッコいい一言、というイメージがあるかもしれません。最後にデザイナーがそれっぽくつける飾り、みたいな。
でも、本当の役割はそこじゃないと、僕は思っています。
キャッチコピーは、自分たちが何をやって、何をやらないかを決めるための物差しです。
「うちは何を大事にするブランドなのか」が一言になっていると、新しい商品案が出てきたときに、それと照らし合わせて判断できる。チームの中で意見が割れても、その一言に立ち返れば「だよね」と揃う。お客さんから見ても、「この会社はこういうことをやる人たちだ」と伝わります。
逆に、この芯がないまま商品だけ増やしていくと、さっきの「どれを選んでいいか分からん」状態に逆戻りします。
だから順番としては、商品をたくさん作りはじめる前に、まずこの一言を決めにいくほうがいい。遠回りに見えて、いちばん早いんです。

一言は「抽象的」でいい。ただし理由はいる

ひとつ補足を。この一言は、わりと抽象的でかまわないと思っています。
あんまり具体的すぎると、想像する余白がなくなってしまう。「こういう人のための、こういう機能の商品」みたいにガチガチに固めると、かえって窮屈になる。さっきのおにぎり屋さんの「手で握る、まごころを込めて」くらいのフワッとした言葉のほうが、いろんな商品を受け止められます。
ただし、フワッとした一言には、それを裏で支える理屈が必要です。
「なぜこの言葉なのか」を、自分たちの言葉で説明できること。そこが空っぽだと、ただ聞こえのいいフレーズで終わってしまう。逆にそこがしっかりしていると、「なるほど、この会社はこういう考えでやってるんだ」と腑に落ちます。
抽象的な看板と、それを支える具体的な理屈。この両方がそろって、はじめて物差しとして働きます。

おわりに

商品開発というと、つい「いいモノをつくる」ことばかりに目が行きます。
もちろんそれが本丸なんですが、その手前で「自分たちは何をやる人たちなのか」を一言にしておくと、その後の判断がぜんぶラクになる。アイデアが多くて迷ったときほど、効いてきます。
とはいえ、この「一言を決める」作業、当事者だけでやろうとすると、なかなか難しいのも事実で。自分たちのことは、近すぎて見えにくいんですよね。
だから僕は、商品の企画やデザインのお手伝いをするときも、社内のチームに伴走するときも、まずこの芯を一緒に探すところから始めることが多いです。
もし「アイデアはあるのに、どれをやるか決めきれない」みたいな手前で止まっているなら、その整理から一緒にやれることもあると思います。よかったら、気軽に声をかけてください。

この記事は、実際の打ち合わせをもとにしていますが、お相手の会社名やブランドの内容は伏せています。