異業種なのに、その商品を作っていいの?|商品開発の動機の話

「これ、なんでうちが作るの?って聞かれたら、なんて答えたらええんやろ」
打ち合わせの最中、相手の方がふっと手を止めて、そう言いました。長く続けてきた本業とは毛色の違う、新しいジャンルのブランドに踏み出そうとしている会社さんで、アイデアも出そろって、いい雰囲気で進んでいた矢先のことです。
新しいことを始めるとき、こういう引っかかりは本当によく出てきます。長くある分野をやってきた会社が、急に畑違いのものを出す。「なんで御社が、これを?」——その問いに、ちゃんとした答えを用意しておかなきゃいけない気がしてくる。
でも先に言うておくと、その「立派な答え」、無くても大丈夫やったりします。今日はその話を書いてみます。
「なんでうちが?」に、答えを探して止まってしまう
打ち合わせのその会社さんも、まさにここで悩んでいました。
正直な気持ちを聞くと、「面白そうやから作りたい」。それが本心。世の中にまだ無いものができそうやし、やってて楽しい。
でも、それだけじゃ理由として弱い気がする。だから無理にでもストーリーを作ろうとする。「我々には長年培ってきた技術があって、その価値を世に広めるために——」みたいな、それっぽい大義名分を。
その気持ち、すごく分かるんです。でも、本心じゃないストーリーを一生懸命ひねり出して、それで手が止まってしまうのは、ちょっともったいない。
「面白そうやから」は、動機としてちゃんと成立します。世の中の商品、全部に高尚な理由があるわけやないし。「自分たちが面白いと思ったものを作る」——それ自体が、立派なブランドの軸になっている人たちもいます。好きなものを作り続けていたら、いつのまにかそれがブランドになっていた、みたいな話も、わりとあるんですよね。
「強み」と「なぜ自社が」は、別の話
とくに、本業とちょっと離れたジャンルに踏み出すときほど、この「なんでうちが?」は大きく見えます。「その業界の会社でもないのに、出してええんやろか」と。でも、その不安を、ぜんぶ立派な動機で埋めようとしなくていいんです。
ここで一つ、整理しておきたいことがあります。
「なんでうちが作るの?」で詰まるとき、実は二つの違う問いが、ごっちゃになっていることが多いんです。
一つは、「この商品の何がいいの? なんで売れるの?」。商品そのものの強み・特徴の話。
もう一つは、「なんで"あなたの会社が"これを作るの?」。動機や物語の話。
この二つ、分けて考えると、急にラクになります。
商品の強みは、要ります。これが無いと、そもそも「なんで売れるの?」に答えられない。ここは譲れない前提です。
でも、「なんで自社が作るのか」という動機の方は、無くても前に進めます。「面白そうやから」で十分。
そして面白いのが——強みの方がしっかり立っていると、「なんで自社が?」という問いは、勝手に消えていくんです。
中身が良ければ、「なんで作ったの」は聞かれない
僕はプロダクトデザインの仕事をしているんですが、何年か前に、天然木を使ったスマホケースを、自分で企画して商品として世に出したことがあります。
きっかけは、たいした理由じゃありません。「みんな同じようなケース持ってるな。自分のものだって分かる、個性の出るケースが欲しいな」。それくらい。そこから天然木を使おうと思って、たまたま木工の職人さんと出会えて、形になりました。
そうやって売ってみて、気づいたことがあります。「なんでお前がスマホケースなんか作ってるの?」——それを聞いてくる人、ほとんどいなかったんです。
気にする人がゼロやったわけやないと思います。でも、少なくとも最初に見られていたのは、そこじゃなかった。みんなが見ていたのは、「このケース、個性的でいいな」「木の質感がいいな」っていう、ケースそのものでした。作った理由の方は、そこまで気にされていない。中身が良ければ、「なんで作ったの」は後回しになるんやな、と。
逆のパターンを考えると、分かりやすいかもしれません。
「うちが新しく作りました、名刺入れです。買ってください。以上」。これだと、「え、なんでおたくが名刺入れ?」って引っかかる。説明が"なんで作ったか"のところで止まっているから、そこに疑問がいくわけです。
でも、「この革、手で一枚ずつ漉いて厚みを揃えてるから、こんなに薄くて丈夫なんです。それを活かした名刺入れを作りました」。こう言われたら、どうでしょう。興味は「どうやって作るの?」「他とどう違うの?」の方に移っていく。"なんで御社が"を聞く隙が、なくなるんです。
つまり、自社が作る理由を一生懸命でっち上げるより、商品の強みを言葉にする方に力を使った方が、ずっと早い。理由は、強みが肩代わりしてくれます。
強みは、最初からきれいに言葉にできてなくていい
ここまで「強みは要る」と言ってきましたが、もう一つ大事なことがあります。
その強み、最初の時点でバシッと言語化できている必要は、ないんです。
走りながら、だんだん見えてくる。作って、人に見せて、反応をもらって、「あ、うちが本当に推せるのはここか」と後から掴めてくることの方が、むしろ多い。最初から完璧に言葉になっていることの方が、珍しいくらいです。
冒頭の会社さんも、打ち合わせの最中は、自分たちの強みをうまく言葉にできずにモヤモヤしていました。でも、話しているうちに「あ、自分たちが面白がってるのはこの部分か」というのが、少しずつ輪郭を持ちはじめる。
だから、「強みも動機も、全部きれいに固まってから動こう」とすると、いつまでも動けない。大義名分が完成するのを待っている間に、止まってしまう。
それより、面白そうと思った時点で手を動かしながら、強みの方を少しずつ言葉にしていく。順番としては、その方がうまくいくことが多いです。
おわりに
新しいことを始めるとき、つい「ちゃんとした理由を用意しなきゃ」と身構えてしまいます。
もちろん、理由があれば深みは出ます。あったらあったでいい。でも、無いと進めないわけじゃない。「面白そう」を出発点にして、商品の強みを育てていけば、「なんで自社が?」は後からついてくるか、あるいは勝手に消えていきます。
理由を探して手が止まるのが、いちばんもったいないパターンなんですよね。
とはいえ、この「強みと動機を切り分ける」「強みを言葉にする」という作業、自分たちだけでやろうとすると、けっこう難しい。自分の面白がっているポイントって、近すぎて、かえって言葉にしづらいんです。
僕は、商品の企画やデザインのお手伝いをするときも、社内のチームに伴走するときも、この「自分たちの強みを、外から一緒に言葉にしていく」ところから始めることが多いです。畑違いのことを始めようとして、「これ、うちがやる意味あるんかな」で止まっているなら、その整理から一緒にやれることもあると思います。よかったら、気軽に声をかけてください。
この記事は、実際の打ち合わせをもとにしていますが、お相手の会社名やブランドの内容は伏せています。
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