在庫を抱えない商品化|「売れてから作る」という順番

試作を1つだけ手に持ち、先行予約で売れた数だけ作る「売れてから作る」商品化を表したイラスト
「作れる」と「売れる」は、じつはぜんぜん違う話なんですよね。
先日、建設の現場で使う道具を、自分で考えて形にした方とお話ししました。現場は人手が足りなくて、一人でも作業を進められたら、という思いから生まれた道具だそうです。本業はものづくりではありません。それでも、知り合いの鉄工所に頼んで試作まで仕上げて、紹介の動画やカタログも、いまはAIでご自分で一通り作っておられました。
つくる側の工場は、ある程度の数なら作れる。ここまで形になると、つい「よし、まとめて作ろか」と考えたくなります。作れるんだから、作りたい。ごく自然な気持ちですよね。
ただ、僕がまずお伝えしたのは、「先に作らないほうがいいですよ」ということでした。作れることと、売れることは、別の話なので。売れてから作る、という順番の話を、今日は書いてみます。

いちばん怖いのは、売れる前に在庫を抱えること

はじめて物を売るとき、いちばん大きいリスクは、たぶん「在庫」です。
作れるからと、先にまとまった数を作ってしまう。すると、まだ一つも売れていない段階で、その全部を自分で抱えることになります。
なかでも重くのしかかるのは、お金です。在庫があるということは、材料や製造の支払いが、もう発生しているということなので。売上が立つより先に、お金だけが出ていって、現物になって手元で寝てしまう。
場所も、そうです。現物ですから、数が増えるほど、置いておくスペースを圧迫していきます。しかも今回のものは、ある程度の重さがありました。こうなると、数がまとまるほど、重さまで無視できなくなってきます。
そして、もし売れ行きが思ったより鈍かったら、先に払ったぶんは戻らないまま、在庫だけが積み上がっていきます。
はじめての商品でいちばん怖いのは、ここなんですよね。「作れるかどうか」より、「作った分が、ちゃんと売れるかどうか」のほう。
その方も、工場のペースに合わせて作ること自体は、やろうと思えばできる状態でした。けれど、できることと、やって安全かどうかは、別なんです。

だから、順番を逆にする

じゃあどうするか。僕がお伝えしたのは、「作る」と「売る」の順番を、ひっくり返すやり方でした。
先に在庫を作らない。試作は、まず1個でいい。なんなら、いまはCGでもある程度は見せられます。
そのうえで、クラウドファンディングを使います。マクアケやキャンプファイヤーといった、先行予約のできるサイトですね。そこに「こういう物を考えたんですが、欲しい方いませんか」と出してみる。事前に注文を受けて、たとえば50個の予約が集まったら、そこで50個を作る。
作るのは、売れた分だけ。この順番にすると、抱える在庫は、試作の1個で済みます。
「売れてから作る」というのは、たとえばこういうことです。需要を先に確かめて、そのぶんだけ後から作る。はじめの一歩としては、これがいちばん安全なんじゃないかなと思っています。

「これ、本当に売ってるの?」をどう消すか

ただ、一つだけ気をつけたいことがあって。
見せるものが全部CGだけだと、見た人はどこかで「これ、本当に売ってる物なんかな」と身構えます。画面の中だけの、きれいな絵。それだけだと、お金を出す手前で止まってしまう。
だから、実物を1個だけ、ちゃんと作っておく。その写真や、実際に使っている様子の動画を見せる。
この1個は、量産のための試作というより、「ちゃんと存在しますよ」という、信用の裏づけなんですよね。先行予約って、要は「まだ手元に無い物」を先に買ってもらうことなので。買う人の「大丈夫かな」を、実物の一つで受け止めておく。

値段を載せる前に、一つだけ

先行予約に出すときは、たいてい値段も一緒に載せます。ここに、一つだけ落とし穴があって。
同じ物でも、1個だけ作るときと、たくさん作るときとでは、1個あたりの原価が変わります。そこを工場と詰めないまま値段を決めてしまうと、あとから「原価割れ」の予約が集まってしまう、なんてことも起きます。
この「いくらで作れるか」は、それだけで長い話になるので、また別の機会に書きます。ここでは、「値段を載せる前に、作る側のコストを先に押さえておく」とだけ。しかもそれは製造費だけじゃなく、パッケージや説明書みたいな周辺の準備も含めた金額です。

おわりに

僕はもともと、メーカーの中で、企画から製造、販売までを一通り通ってきました。だからか、作れるだけ作って在庫で身動きが取れなくなる、という場面も、何度か見てきています。
商品化って、「作れる」がゴールに見えて、じつは入り口なんですよね。そこから「売れる」に変えていくところで、いちばん頭を使う。はじめての方は、その道を初めて歩くから、次の一歩が重く感じるだけなんだと思います。
もしかして、こんなところで止まっていないでしょうか。
  • 試作まではできたが、ここから何個作って、どう売ればいいか分からない
  • 作れるだけ作ってしまって、売れ残りが怖い
  • 先に量産するか、予約を取ってから作るか、決めきれない
どれも、はじめて物を世に出すときに、よく出てくる迷いです。
僕は、商品の企画やデザインのお手伝いをするときも、はじめて世に出す方の伴走をするときも、まず「何を、どのくらい、どの順番で作るか」を一緒に考えるところから始めることが多いです。もし似たような場所で止まっているなら、その整理から一緒にやれることもあると思います。よかったら、気軽に声をかけてください。

この記事は、実際の打ち合わせをもとにしていますが、お相手の会社名や商品の内容は伏せています。