ブランドの広め方|完成前から「過程」を発信するという手

粘土の塊から壺が少しずつ形を変えながら完成していく途中経過を4段階で描いたイラスト
中身をどうするか、どんな商品を出すか——そういう話を何度も重ねてきたんですが、あるとき、ふとこんな話になりました。
「で、これ、どうやって世の中に広めたらええんやろ」と。
これ、すごく大事なところです。どんなにいいブランドができても、知られていなかったら、無いのとほとんど同じなんですよね。作ることばかりに気を取られていると、つい後回しになりがちです。
「広める」というと、たいていは完成してからお披露目する、というイメージになると思います。きっちり仕上げてから、ジャーンと出す。
でも実は、それとは別に「できあがる前から、ちょっとずつ見せていく」という手があります。そして場合によっては、こっちのほうが人の心に残ったりする。今日はその話をしてみます。

「完成しました!」だけでは、意外と心が動かない

完成したものを、いきなり目の前に差し出されたとき。
正直、「へえ、すごいね」で終わってしまうこと、ありませんか。
きれいに仕上がっているし、悪いところもない。でも、なんというか、自分とは関係のないところで勝手に出来上がったものを、ただ受け取っているだけ、みたいな感じになる。
完璧なものほど、逆に手の出しようがない。口を挟む隙も、応援する隙もない。「よくできてますね」と眺めて、それでおしまい。
作った側からすると、いちばん見てほしい完成形なのに、見る側の気持ちはそんなに動かない。ここに、ちょっとしたすれ違いがあるな、と思うんです。

人は、できていく「途中」に弱い

逆に、まだ出来上がっていないものを見せられたら、どうでしょう。
ここで悩んでる。これは失敗した。お、今度はうまくいった。そういう、ぐちゃぐちゃした途中経過を横で見ていると、気づいたら「これ、どうなるんやろ」と気になってくる。
うまくいってほしいな、と思いはじめる。いつのまにか、応援する側に回っている。
これ、スポーツを観るときの感じに近いかもしれません。
たとえば、シーズンが終わったあとに「今年の優勝はこのチームでした」と結果だけ聞かされても、正直そんなに盛り上がらないと思うんです。でも、どこが勝つのか毎試合ハラハラしながら追いかけてきたら、優勝の瞬間はたまらない。勝てるか分からない試合を一つずつ見てきたからこそ、心が動く。もし結果が出るまで何も見せず、優勝が決まってから発表するだけのリーグだったら、たぶんそこまで盛り上がれないですよね。
商品も、たぶん同じです。完成してから初めて知った人と、できていく様子をずっと見てきた人とでは、同じものでも思い入れが違う。後者にとっては「自分も途中から見てたやつ」になる。ちょっとだけ、自分ごとになる。
人は、完璧に整ったものより、頑張っている途中のものに、つい肩入れしてしまう。そういうところがあると思います。

クラウドファンディングの、いちばんおもしろいところ

これ、クラウドファンディングの話に近いな、と勝手に思っています。
今の日本のクラファンって、僕の目にはけっこう「先行通販」みたいに見えるんです。海外のことは知らないので、あくまで日本で見かける範囲の話なんですけど。完成間近のものを、ちょっと安く先に買える場所。そういう使われ方が多い気がします。
でも、クラファンのおもしろさって、そこだけじゃなかったはずなんですよね。
「この人たちが、こういうものを作ろうとしている。なんかいいな、応援したい」。そうやって、まだ形になっていないものにお金を出して乗っかる。完成品を買うというより、できていく過程そのものに参加する。そういう感覚が、もともとはあったと思うんです。
お金を払って商品を受け取る、というより、一緒に育てる。うまくいくか分からないものに、一口かんでみる。その「途中から関わった」という感覚が、応援する気持ちを生んでいた。
で、ここなんですが——その「過程を応援してもらう」という感覚自体は、別にクラファンという仕組みじゃなくても使えるんですよね。

商品の中身は、隠していい

ここでひとつ、誤解されやすいので先に言っておきたいことがあります。
「過程を見せる」というのは、何もかもさらけ出せ、という話ではありません。
商品そのもの、完成形のデザイン。ここは、お披露目の日まで隠しておいていい。むしろ隠しておいたほうがいい。ジャーンと出す瞬間の楽しみは、ちゃんと取っておく。
見せるのは、そっちじゃない。「作っている姿」のほうです。
今こんなことで悩んでいる。ここで一回つまずいた。こうやって乗り越えた。まだ名前すら決まっていない。——そういう、出来上がっていく途中の姿。
中身は秘密のまま、頑張っている姿だけは見せる。この二つは、ちゃんと両立します。最後のサプライズは隠しつつ、そこに至るまでの道のりは開いておく。そういう見せ方ができる。

「いつから見せるか」という、発想の選択肢

正直に言うと、僕はSNSの細かいやり方とか、どうすればバズるか、みたいなことは、専門外です。そこは得意な人に任せたほうがいい、と本気で思っています。
なので今日の話も、テクニックの話ではありません。「いつから見せはじめるか」という、もっと手前の発想の話だと思ってもらえたらうれしいです。
完成してから一気に出すのか。それとも、できあがる前から少しずつ見せていくのか。
これは、手段がSNSであっても、展示会であっても、紙のものであっても、考え方としては同じように選べます。どこから物語を始めるか、という話なので。
別に、過程を見せるのがいつも正解、というわけでもありません。ギリギリまで何も出さずに、当日ドーンと出したほうが効く場面も、当然あります。
ただ、「完成してから広める」しか道がないと思い込んでいると、その手前にあるもう一つの選択肢が見えなくなる。「できる前から見せる」というやり方があることだけは、頭の片隅に置いておいて損はないと思います。

おわりに

ブランドを作るとなると、つい「いいモノを完成させること」に意識が全部もっていかれます。
もちろん、それが本丸です。でも、それをどう世に出すかは、完成してから慌てて考えるより、作りながら一緒に転がしておくほうがいい。広め方は、モノができてからの"おまけ"じゃなくて、作っている最中からずっと地続きなんですよね。
冒頭の会社さんとも、中身を固めながら、「いつから、何を見せていこうか」というのを、ちょっとずつ話している最中です。完成形は隠しつつ、その手前をどう開いていくか。そのあたりを、行ったり来たりしながら一緒に考えています。
僕は、商品の企画やデザインそのものだけじゃなく、こういう「で、どうやって世に出すか」というところまで含めて、一緒に考えることが多いです。いいモノはできたけど、その先で止まっている。そんなときは、広め方の手前にある迷いを整理するところから、一緒にやれることもあると思います。

この記事は、実際の打ち合わせをもとにしていますが、お相手の会社名やブランドの内容は伏せています。