目立つデザインとは?対比が生み出す“視線を引く工夫”の正体

はじめに

目立つデザインにしてください」と言われたことがある方は多いのではないでしょうか。
製品パッケージや展示物、広告、UIなど、あらゆる場面で「目立つこと」は重要な要素です。 しかし実際のデザインの現場では、「目立つ」という言葉がいかに曖昧で、そして難しい要求であるかを実感します。
今回は、私がプロダクトデザインの仕事をする中で考えている「目立つデザイン」について、小話としてまとめてみます。

1. 目立つとは「対比」である

「目立つデザイン」と聞くと、「派手」「カラフル」「インパクトのある形」といった印象を思い浮かべるかもしれません。しかし私は、目立つかどうかは要素そのものの強さではなく、「まわりとの対比」によって決まると考えています。
 
たとえば、パトカーや救急車のサイレンは日常生活の中では非常に目立ちますが、クラブのような大音量の空間の中では埋もれてしまいます。どれだけ強い音や光であっても、それ以上に派手な環境にあれば埋もれてしまうのです。
 
逆に、周囲が騒がしいときには、静かなものの方が目立つこともあります。たとえば、派手な広告が並ぶ中に、白地に黒文字だけのシンプルなポスターがあれば、逆に目を引くことがあります。目立つとは、要素の派手さではなく、「まわりとどう違うか」という対比にこそ本質があるのです。
 
つまり、「目立つ=派手にする」ではなく、「まわりとどう違うか」によって目立ち方が変わる。 これが私の中での基本的な考え方です。

2. 売り場はコントロールできない

目立たせたいという要望は多くありますが、実際の売り場や使用環境はコントロールできません。 どの棚に並ぶか、どの製品の隣に置かれるか、どんな照明や背景になるか。 そういった条件は、基本的にデザイナーの手の届かないところにあります。
さらに、最初は目立っていても、売れた結果として他社が似たようなデザインを採用し始め、相対的に埋もれてしまうこともあります。つまり「目立つデザイン」には永続性がないと言えるかもしれません。
 
このような背景から、「絶対に目立つデザイン」をつくるのは現実的ではありません。 本当に考えるべきは、「その場・その瞬間で目に留まる可能性をいかに高めるか」だと感じています。

3. コントロールできる部分で対比をつくる

周囲の環境は変えられなくても、自分たちの製品やパッケージは設計可能です。 だからこそ、私は「目立たせるための対比」をそこに仕込むようにしています。
 
たとえば色。周囲にない色を使ってコントラストをつくることもあれば、あえて彩度を落として逆に浮かび上がらせることもあります。
形状も同じです。丸い製品が多い場面では角を立て、角ばった製品が多ければ丸みを取り入れる。 質感も対比の材料になります。全体がツヤのある製品の中で、あえて一部にマットな仕上げを加えることで視線を集める、というような工夫です。
 
そして情報。ラベルやパッケージにおいて「すべて伝えたい」と思う気持ちは理解できます。 しかし、それをすべて同じボリューム・同じ主張で配置すると、結果的に何も伝わりません。 情報にも優先順位をつけ、強弱をつける。これも対比の一種です。

4. 一瞬で伝えるために、伝えることを絞る

現代は情報過多の時代です。製品も広告もコンテンツも、世の中にはモノが溢れています。 そんな中で選ばれるには、パッと目に入った一瞬で興味を持ってもらう必要があります。
 
一瞬で目に入るのは、短く、シンプルで、明確な要素だけです。 長文の説明や複雑な意図は、そのあとです。
だから私は、「まずは一番伝えたいことを絞る」ことを意識します。
それが視線を引く最初の“入口”になります。入口さえつくれれば、あとはじっくり見てもらえるチャンスが生まれます。

5. 目立たせるとは、一手を考えること

「目立つデザイン」に絶対的な正解はありません 。だからこそ、周囲との関係性を読み、自分たちがコントロールできる要素の中で最適な対比をつくる。その一手を考えることが、私にとっての“目立つデザイン”です。

【まとめ】

  • 目立つとは「対比」である。
  • 売り場や周囲の状況はコントロールできない。
  • だからこそ、自分たちで作れる製品やパッケージの中に対比をつくる。
  • 色・形・質感・情報に優先順位をつけて強弱を設計する。
  • 全部を伝えようとせず、まずは一瞬で伝わる“入口”を考える。
「目立つデザインをしてください」という要望に対して、私はこう考えながらデザインをしています。