【製造業】になぜ今【ブランディング】が必要か?下請け脱却につながるデザイン活用法

デザインを活用した製造業のブランディング

製造業にとっての「ブランディング」とは?

一般に「ブランディング」と聞くと、BtoCのイメージが強いかもしれません。 しかし、製造業においても「どんな企業なのか」「なぜ選ばれるのか」を明確に伝えることがますます重要になっています。これは取引先に対してだけでなく、採用や社員定着にも直結する要素です。
実際、企業というのは人の集まりです。エンドユーザーに向けたBtoCの場面でしっかり価値を伝えられる企業は、結果としてBtoBの取引先やパートナー企業からも信頼されやすくなります。 その逆、つまり「BtoBでしか通用しない伝え方」では、なかなか一般の目に届きません。 だからこそ、ブランディングは“BtoC的な視点”で磨くべきだと私は感じています。
特に日本の製造業では、OEMや受託生産を中心とした「下請け構造」が一般的です。 この仕組み自体は悪いものではありませんが、利益率の低さやブランド力の欠如といった課題を抱えがちです。こうした課題を乗り越えるために求められるのが、“伝える力”としてのブランディングです。
本記事では、製造業が抱える課題を踏まえつつ、デザインとブランディングによってそれらをどう突破できるのか、具体的なステップや事例を交えて解説していきます。
製造業にとっての「ブランディング」とは?下請けという選択肢:メリットとデメリット下請けのメリット下請けのデメリット製造業の現状と課題:ブランド構築が必要とされる背景1. 利益率 ─ 無形資産投資で約1.5倍の差が生まれる背景対策のヒント2. 人材不足 ─ 従業員数過不足DIは -20.4pt、深刻な人手不足背景対策のヒント3. 離職率 ─ 育成しても辞めてしまう企業が約46%背景対策のヒント三つの課題は一本の糸でつながっている伝わらないブランド ─ “モノは作れる、でも語れない”製造業の壁1. 形容詞は届かない ─ 体験が伴わなければ記憶に残らない2. ターゲットが曖昧 ─ 「誰の課題を解く技術か」を即答できるか3. メッセージの分裂 ─ チャネルごとに“顔”が変わっていないか4. 伝わらないと数字が削られる ─ 利益・採用・定着への直撃5. 30秒セルフチェック ─ この3問に答えられれば第一関門クリアデザインがもたらす付加価値 ─ 製造業にとっての“使われる視点”とは1. 「見た目」だけで終わらせない ─ 製造業におけるUXの価値2. 技術より“伝わりやすさ”が選定基準になる時代3. 一貫したデザインは“信頼感”をつくる投資になる4. デザイン導入の障壁と、その乗り越え方ブランド構築に向けたステップ:製造業の強みを活かす具体策1. 現状把握と棚卸し ─ 技術だけでなく“想い”も言語化する2. ブランドの方向性を定める ─ 誰に、どう思われたいのか?3. 一貫性のある見せ方を設計する ─ ブランドは“体験の総体”4. 社内への浸透 ─ 誰もがブランドを“語れる”ようにする5. 外部パートナーの活用 ─ ブランド構築の伴走者を持つ能作に学ぶ:金属加工企業のブランディングとデザインの巧みさOEMから卒業!製造業による自社商品開発のすすめ1. 利益率アップとブランド力強化2. 強みを活かす独自性3. ブランド力と長期的リピートまとめ:モノづくりにデザインを掛け合わせ、ブランドを育てる

下請けという選択肢:メリットとデメリット

「下請け(OEM中心の受託生産)」は、製造業における重要なビジネスモデルのひとつです。 安定的な受注や設備投資のリスク回避、技術力に集中できるといった点は、大きな魅力です。 一方で、長期的にはブランド構築や収益性に課題が残る構造でもあります。 ここでは、下請け体制のメリットとデメリットを整理し、次のステップを考えるための土台とします。
下請け製造業のメリットとデメリット

下請けのメリット

  • 安定した受注量:取引先企業の製品を支える役割のため、生産量や売上の予測が立てやすく、事業基盤が安定しやすい。
  • 設備投資のリスクが低い:ブランディングや販売戦略にかかるコストが不要なため、大規模な設備投資に対するリスクを抑えられる。
  • 技術力に専念できる:設計や製造工程など、製造の本質に集中できることで技術の研鑽に注力しやすい。

下請けのデメリット

  • 利益率が低い:価格決定権が元請け側にあり、コストダウンの圧力も強いため、利益率が下がりやすい。
  • 価格競争に巻き込まれる:他社や海外企業との価格比較にさらされやすく、受注の継続が不安定になる可能性がある。
  • ブランド構築が難しい:エンドユーザーに直接価値を伝える機会が乏しく、自社の強みやビジョンが見えにくくなる。
下請けビジネスは、短期的には非常に有効で堅実なモデルですが、将来的な独自性や利益確保、そして人材確保を考えたときに、ブランドの存在が不可欠になります。
「OEMからの脱却」や「自社商品への挑戦」を検討している企業にとって、次に必要なのは“伝える力”、つまりブランディングとそれを具現化するデザインの視点です。
次のセクションでは、現在の製造業が抱える構造的な課題と、それに対してブランディングがどのように効くのかを掘り下げていきます。

製造業の現状と課題:ブランド構築が必要とされる背景

日本の製造業は、加工精度や品質管理といった面で依然として世界トップクラスの技術力を誇っています。 しかし現場を横断的に見ると、次のような深刻な三重苦『利益率の低さ・人材不足・離職率の高さ』に直面しています。
ここでは、経済産業省『ものづくり白書2024』のデータをもとに、なぜブランディングが今求められているのかを考察します。
製造業の課題をブランディングで解決できる可能性

1. 利益率 ─ 無形資産投資で約1.5倍の差が生まれる

2024年版ものづくり白書によると、売上に対する
具体的には 上位10%の企業の売上高営業利益率は 3.75 %、下位10%の企業は 2.54 %で、差は約1.5倍 です。(出典:経済産業省『2024年版ものづくり白書 概要』p.17)

背景

多くの中小製造業は、機械設備や建屋といった“見える資産”には投資を惜しみませんが、ブランド構築やUXデザインのような“見えない資産”にはコストを掛けない傾向があります。
その結果、製品が“単なる部品”として見なされやすく、価格でしか評価されない市場に留まりやすくなります。

対策のヒント

無形資産への投資は、製品そのものではなく「価値」や「体験」で選ばれる企業になるための“先行投資”です。ブランディングによって技術や製品に明確な意味づけを行い、価格競争からの脱却を目指すべきです。
製造業がこれを実現するには、自社の技術を「誰の、どんな課題を、どう解決するか」というストーリーに翻訳することが求められます。これこそが、ブランディングの本質であり、利益率を押し上げる強力な武器になります。
ブランディングに取り組んでいる製造業は利益率が高い

2. 人材不足 ─ 従業員数過不足DIは -20.4pt、深刻な人手不足

2024年版ものづくり白書によれば、従業員数の過不足感を示すDI(Diffusion Index)は2023年時点で-20.4ptまで低下しています。(出典:経済産業省『2024年版ものづくり白書 概要』p.6 p.18)
※DIは「ゼロが適正値」を示し、マイナスになるほど人手不足の傾向が強まります。
 
直近 5 年の推移(製造業・中小企業)
DI(%pt)
2019–18.2
2020+1.1(コロナ直後は一時的に過剰)
2021–9.2
2022–19.0
2023–20.4

背景

日本全体の少子高齢化が進行する中で、特に製造業は若年層から敬遠されやすい状況にあります。 いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージが根強く、職場としての魅力を十分に伝えきれていないのが実情です。
また、企業の知名度が低いことも就職先として選ばれにくい要因の一つです。BtoB企業では特に、エンドユーザーの目に触れる機会が少ないため、どんな仕事をしているのか、どんな強みがあるのかが伝わらず、就活生にとって“未知の会社”に映ってしまいます。

対策のヒント

ここでもブランディングの力が重要になります。
企業のビジョンや世界観を明確に伝え、「どんな価値を社会に提供しているのか」を表現できれば、共感を得やすくなり、応募動機にもつながります。
実際に、社名よりもブランド名が先に知られているBtoB企業の多くは、採用エントリー率が高い傾向にあります。ブランド力は商品販売だけでなく、採用活動にも大きな波及効果をもたらす無形資産なのです。

3. 離職率 ─ 育成しても辞めてしまう企業が約46%

2024年版ものづくり白書によると、製造業の45.9%が「人材を育成しても辞めてしまうことが課題」と回答しています。(出典:経済産業省『2024年版ものづくり白書 概要』p.19)

背景

人材を確保しても、数年以内に転職されてしまうという悩みを抱える企業は少なくありません。
その背景には、キャリアパスの不透明さや、企業理念が浸透していないこと、そして「この会社で働く意味」を社員が感じられない環境があると考えられます。
さらに、企業に対する誇りや共感が得られないと、転職サイトやSNSで他社の情報に触れた際に「もっと自分に合う場所があるのでは?」と感じてしまうのも自然な流れです。

対策のヒント

若手人材の定着には、共感できるストーリーやビジョンの共有が不可欠です。
「この会社の仕事は社会の役に立っている」「家族や友人に自慢できる仕事だ」と思えるようなブランドメッセージがあるだけで、定着率は大きく変わります。
特に製造業は、誇れる技術や製品を持っている企業が多いため、それを「誰の課題をどう解決しているのか」という語り口で社内にも発信し直すことが重要です。
ブランドの世界観を社員と共有できれば、日々の仕事に意味を見出しやすくなり、結果として離職率の改善につながります。

連鎖している製造業の課題をブランディングで解決

三つの課題は一本の糸でつながっている

ここまで見てきたように、利益率の低さ・人材不足・離職率の高さは、いずれも製造業が直面している深刻な課題です。
しかもこれらは個別に発生しているのではなく、密接に連鎖しているのが実情です。
たとえば、
  1. 利益率が低い → 投資余力がなくなり、設備更新や働きやすい環境整備が進まない
  1. 人材不足が加速 → 少人数での業務負担が増え、職場満足度が下がる
  1. 若手が離職 → 育成コストが無駄になり、技術継承もままならない
このような負のスパイラルに陥ると、経営基盤そのものが不安定になります。
 
しかし、逆に言えば、これらの課題は共通のアプローチで解決を目指せるということでもあります。
キーワードは、無形資産=ブランディングとデザインへの投資です。
ブランド価値が高まれば、価格競争に巻き込まれず、利益率が改善します。 魅力的な企業像を伝えられれば、採用力が上がり、人材不足の緩和につながります。 社員とブランドの世界観を共有できれば、職場への愛着が育ち、離職率も下がります。
つまり、伝わる力=ブランド力が三つの課題にまとめて作用する、いわば“てこ”の役割を果たすのです。
次章では、「その伝わる力=ブランディング」をどのように整えれば、利益・採用・定着の三点を同時に底上げできるのか、具体的な改善策を解説していきます。

伝わらないブランド ─ “モノは作れる、でも語れない”製造業の壁

製造業の現場には、切削音や溶接の火花が飛び交う“つくる力”が息づいています。 その一方で、展示会や採用説明会など対外的な場面になると、
「日本一おもしろい会社」「一生物になる製品」といった抽象的な言葉ばかりが並ぶことも少なくありません。
こうしたメッセージは聞こえこそ良いものの、具体性に欠けると「で、結局なにがすごいの?」という疑問だけが残ります。
これは単なる言葉選びの問題ではありません。多くの企業が「作れるから作る」というプロダクトアウト型の発想に偏っていることが背景にあります。
プロダクトアウトとは、技術や設備といった自社の都合を出発点に製品を考える開発姿勢です。 対して、ユーザーの課題を起点に考えるマーケットイン型の視点では、
「誰の、どんな困りごとを、どう解決するのか」という問いに答えることが求められます。
この発想の違いが、伝え方やブランド価値に大きな差を生むのです。 ここでは、製造業がブランドとして“伝わらない”原因と、それを解消するポイントを整理します。

1. 形容詞は届かない ─ 体験が伴わなければ記憶に残らない

「おもしろい」「高品質」「一生物」 語感は立派ですが、体験と結びつかない形容詞は、心に残りません。
たとえば「高機能」と言うより、
「ネジ1本でフレームを分解でき、作業時間を90%削減できる」
と語れば、具体的なイメージとして伝わります。
体験の欠けた形容詞は、記憶に残らないどころか、陳腐にすら聞こえるリスクがあるのです。

2. ターゲットが曖昧 ─ 「誰の課題を解く技術か」を即答できるか

多くのメーカーは「作れるから作った」製品を展示しています。
しかし、“誰のための製品か”が曖昧だと、技術はただの“良いモノ”止まりです。
  • 夜勤で段取り替えに追われる生産技術者
  • 立ち作業で腰を痛める検査員
たった1人でもよいので明確なターゲット像を描くことで、製品の魅力は課題解決の具体策へと変わります。それができないと、価格でしか優劣を伝えられないという状況に陥ってしまいます。

3. メッセージの分裂 ─ チャネルごとに“顔”が変わっていないか

  • Web:黒背景で高級感
  • カタログ:ポップなカラーで親しみやすさ
  • 展示会:赤札で「即売」感
もしこうしたチャネルごとのメッセージがバラバラなら、ユーザーは「どれが本当の姿なのか?」と混乱します。
ブランドとは「一貫した約束」です。
すべてのチャネルで同じ語り口・同じ感情を届けることで、企業像に一本の筋が通ります。

4. 伝わらないと数字が削られる ─ 利益・採用・定着への直撃

語り方が整っていないと、その影響は売上や人材にも跳ね返ってきます。
項目“伝わらない”とこうなる
利益率指名買いが起きず、値引き頼み → 粗利が低下
人材確保企業の特徴が伝わらず、就活生にスルーされる
離職率理念が浸透せず、育てた若手が離れていく
だからこそ、“語り方”への投資は設備投資以上にリターンがあるのです。

5. 30秒セルフチェック ─ この3問に答えられれば第一関門クリア

ここでは、ブランド価値を“伝わる形”にするためのセルフチェックを紹介します。複雑な言葉はいりません。以下の3つの問いに、誰が聞いてもわかる具体的な言葉で即答できるかを自問してみてください。
  1. 何が特徴なのか?
    1. ・例:ネジ1本で分解でき、作業時間が70%短縮
  1. ターゲットは誰なのか?
    1. ・例:夜勤帯で段取り替えに追われる生産技術者
  1. いつ・どこで・どう使うのか?
    1. ・例:深夜でも1人で安全に交換でき、腰への負担を軽減
この3つに答えられないのであれば、まずは現場のエピソードやユーザーの声を丁寧に拾い直すことから始めましょう。
そして、Webサイト・製品カタログ・展示会のブースデザインまで、すべての接点で一貫したブランドストーリーを伝えるよう心がけてください。 語る言葉、使う色、写真のトーン─どれもがブランドの「人格」としてつながるべきです。
それが、伝わるブランドづくりの第一歩です。

デザインがもたらす付加価値 ─ 製造業にとっての“使われる視点”とは

製造業における「デザイン」と聞くと、外観やロゴの話だと思われがちです。
しかし、実際のプロダクトデザインとは“見た目を整える作業”ではなく、“使われる体験”を設計するプロセスそのものです。
ここでは、製造業がデザインを導入することで得られる「見た目以上の価値」について、実例を交えながら整理していきます。

1. 「見た目」だけで終わらせない ─ 製造業におけるUXの価値

製造業の多くはBtoB──つまり法人顧客向けのビジネスが中心です。
BtoBの場合、購入判断や利用は「会社の物」として行われますが、実際に製品を選んだり、使ったりするのは一人ひとりの“人”です。BtoCと同じように、使いやすさやわかりやすさは重要な選定基準となります。
製品がいくら高機能であっても、ユーザーが使いこなせなければ意味がありません。 たとえば、機械の操作パネルが複雑すぎてミスが起きたり、部品の交換に時間がかかったりすれば、現場では「使いづらい製品」という評価になってしまいます。
BtoB領域でのUX(ユーザー体験)設計とは、こうした“導入や運用時のストレス”を最小化する工夫です。それが結果的に、「選ばれる理由」や「差別化」にもつながります。

2. 技術より“伝わりやすさ”が選定基準になる時代

かつては「性能がすべて」という時代がありました。機能や精度、耐久性といったスペックで競えば、自然と優れた製品が選ばれていたのです。
しかし現在は、どのメーカーも一定水準以上の技術を持っており、技術面では大きな差がつきにくい“コモディティ化”の時代に入っています。
だからこそ、「良い製品かどうか」よりも「わかりやすいか」「使いやすそうか」「不安がないか」といった“伝わりやすさ”が重要な判断材料になってきているのです。
たとえば、性能が同等の2社が競合した場合、
  • 説明資料が読みやすい
  • サポート体制が視覚的に伝わってくる
  • UIがシンプルで、使っている自分を想像しやすい
といった“伝わりやすさ”や“安心感”が、選定の決め手になるのです。
これはまさに、BtoCでの購買行動と同じ構造です。
「製品は会社の物」でも、「選ぶのは人」。だからこそ、企業側が“人の納得”を設計する必要があるのです。
デザインは、その納得を形にするための実践的な手段です。 「伝わりやすさ」を構造的に設計できる手段でもあります。

3. 一貫したデザインは“信頼感”をつくる投資になる

ブランドとは「機能」ではなく「約束」の集合体です。
製品のデザイン、パッケージ、展示会ブース、カタログ、Webサイト──
これらがバラバラな印象だと、企業像に一貫性がなくなり、ユーザーの中で信頼関係が築かれにくくなります。
逆に、すべての接点において共通する世界観や語り口が貫かれていれば、企業としての“人格”が伝わり、結果として価格ではなく信頼で選ばれるブランドへと近づいていきます。
こうした一貫性は、大手企業に限った話ではありません。
中小製造業でも、“何をどう伝えるか”を明確に定義し、それを社内外で共有するだけで、見え方は大きく変わります。
これは大きな予算をかけずとも可能です。
むしろ、“伝え方”に投資する意識こそが、次世代の設備投資とも言えるのではないでしょうか。 デザインを統一する意思さえあれば実現可能です。

4. デザイン導入の障壁と、その乗り越え方

「デザインなんて現場には関係ない」 「過去に導入しようとしたけど、結局うまく浸透しなかった」
こうした声は、製造業の現場でたびたび耳にします。
デザイン導入が進まない背景には、次のような要因があります:
  • 現場からの理解が得られない(=抽象的に見える)
  • 成果が定量化しづらく、社内での合意形成が難しい
  • 社内にデザインの専門知識を持つ人材がいない
また、忙しい日々の中で「伝え方を考える時間すらない」というのが実情かもしれません。
このようなときに効果的なのが、外部のプロダクトデザイナーを活用する方法です。
デザインのプロが入ることで、単なる見た目の提案ではなく、現場の課題に根ざした整理・設計・伝達を一気通貫で支援できます。加えて、社内の温度差を中立的に調整したり、説得材料となるビジュアルを用意したりと、社内浸透の推進役としても力を発揮します。
「外部に任せる=丸投げ」ではなく、“社内の意志をカタチにしていくための翻訳者”として関わるのが、プロダクトデザイナーの真の役割です。
第三者だからこそ社内の対立を中立的に整理でき、プロの視点で“伝える形”に落とし込むことができます。
デザインとは、誰かの感性に任せる装飾作業ではなく、
“選ばれる製品”を実現するための、実践的な設計手段です。
製品そのものの魅力を最大限に活かすためにこそ、デザインは必要とされています。

ブランド構築に向けたステップ:製造業の強みを活かす具体策

製造業が自社ブランドを築くには、単に「良い製品をつくる」だけでは不十分です。これまで積み重ねてきた技術力や品質管理のノウハウに、「誰に・どんな価値を届けたいのか」という視点を掛け合わせることで、ブランドは初めて“伝わる存在”になります。
ここでは、製造業がブランディングを進めるうえでの具体的なステップを紹介します。

1. 現状把握と棚卸し ─ 技術だけでなく“想い”も言語化する

まずは、自社が持つ技術や独自性を洗い出し、どのような価値を提供できるのかを明確にする必要があります。
  • 加工技術、素材の扱い、品質へのこだわり
  • 創業ストーリーや経営理念
  • 社内で大切にされてきた暗黙のこだわり
これらを単なるスペックではなく、「どう役立つのか」「どんな課題を解決するのか」の視点で言語化することが重要です。

2. ブランドの方向性を定める ─ 誰に、どう思われたいのか?

ブランドとは、「誰に、どんな印象を与える存在でありたいか」という意思表示です。
  • ターゲットとなる顧客像を具体化する(例:OEMではなく最終ユーザーを意識)
  • 機能や価格ではなく、体験価値や共感をどう設計するかを考える
  • 自社らしいストーリーやビジョンを定める
この段階では「プロダクトアウト」と「マーケットイン」の視点をバランスよく持つことが大切です。 自社の技術をベースにしつつ、ユーザーの求める価値にどう接続させるかを検討しましょう。

3. 一貫性のある見せ方を設計する ─ ブランドは“体験の総体”

製品単体だけでなく、パッケージ、Webサイト、カタログ、SNS投稿など、ユーザーの目に触れるすべてがブランド体験です。そこで重要なのが「一貫性」です。
  • ロゴや色、フォントなどのビジュアルガイドラインの整備
  • トーンや語り口の統一(高級感? 親しみやすさ? 技術的信頼性?)
  • 製品写真や導入事例の見せ方を統一する
こうした統一感があることで、ユーザーの記憶に残りやすくなり、ブランドへの信頼が蓄積されていきます。

4. 社内への浸透 ─ 誰もがブランドを“語れる”ようにする

ブランド構築は外向きの活動と思われがちですが、社内への共有も極めて重要です。 社員がブランドの方向性や価値を理解していなければ、対外的な発信にも一貫性がなくなります。
  • 社内説明資料やワークショップの開催
  • 朝礼や定例会での定期的な共有
  • 新入社員研修への組み込み
「みんなが同じことを語れる」状態をつくることで、企業としての信頼感が生まれます。

5. 外部パートナーの活用 ─ ブランド構築の伴走者を持つ

ブランディングは、製品づくり以上に「正解がない」取り組みです。だからこそ、デザイナーやマーケティングの専門家と連携しながら進めるのがおすすめです。
外部パートナーは、
  • 客観的な目線で自社の魅力を掘り起こす
  • 情報整理とデザイン設計を支援する
  • 社内の温度差を調整し、推進役になる
といった役割を担うことができます。第三者だからこそ見える強みや、ユーザー目線に立った整理整頓が、ブランドの“伝わる力”を加速させてくれるのです。
このようなステップを踏んでいくことで、製造業でも着実にブランドを構築していくことができます。「いいモノをつくっているのに伝わらない」という課題を乗り越えるためにも、ブランディングの取り組みは今後ますます重要になるでしょう。

能作に学ぶ:金属加工企業のブランディングとデザインの巧みさ

実際の例として、富山県高岡市の能作は伝統ある金属加工技術を現代のライフスタイルに合わせて再定義し、ブランドとして成功している企業の一つです。錫(すず)や真鍮などを用いたテーブルウェアやインテリア雑貨を展開しており、実用性だけでなく、洗練されたデザインブランディングで国内外から高い評価を受けています。
  • 伝統技術の継承×現代的デザイン:昔ながらの鋳造技術を尊重しつつ、生活シーンにマッチするデザインを積極的に取り入れる。
  • 工場見学やワークショップ:製造現場をオープンにし、ユーザーがブランドの世界観に直接触れる機会を提供。これがファン獲得にもつながっている。
  • 海外市場へのアピール:公式サイトやSNS、海外の見本市への出展など、積極的に発信することで認知度を高める。
  • ブランディング・ストーリー:歴史や職人技といった背景を、わかりやすい物語として発信。単なる「錫の食器」ではなく、「モノづくりのこだわりと生活の豊かさ」を提案している。
能作の事例は、「製造業であってもブランディングとデザインを融合させれば新しい価値を創出できる」という好例です。同じく伝統技術を持つ他地域の製造業にとっても、学べる点が多いでしょう。
 

OEMから卒業!製造業による自社商品開発のすすめ

ここまで、製造業におけるブランディングやデザインの重要性についてお話してきました。 自社の技術力や製品の魅力を「正しく伝える力」は、顧客との信頼関係を築くだけでなく、価格競争から脱却するための武器にもなります。
そして、そうした“伝える力”を手に入れた先にこそ、見えてくる選択肢があります。 それが――OEMや下請け中心の体制から一歩踏み出し、「自社商品」を開発するという方向性です。
OEMでは顧客のブランドの一部を担う立場に過ぎませんが、自社ブランドの商品であれば、設計・価格・販売戦略まで自社でコントロールできる。 この自由度の高さは、利益率の向上継続的なファン獲得にもつながります。
では、自社商品開発に取り組むとどんなメリットがあるのでしょうか?

1. 利益率アップとブランド力強化

OEM(他社ブランド製品の受託生産)をメインに事業展開している企業では、自社商品の開発に踏み出すことで利益率ブランド力の向上が見込めます。下請けや受注生産だけだと、どうしても利益率が低く競合の影響を受けやすいため、収益構造が不安定になります。

2. 強みを活かす独自性

製造業には、それぞれが得意とする加工技術や材料ノウハウなどの強みがあります。これらを活かしたオリジナル商品開発は、他社が簡単に真似できない独自性を打ち出せる絶好の機会です。たとえば以下のステップを踏むとスムーズに進められます。
  1. 強みの棚卸し:自社の技術的アドバンテージや、ライバル企業が持たない特殊な工程・素材・ノウハウを整理する。
  1. 市場分析:ターゲットとなる顧客層のニーズをヒアリングし、今何が求められているのかを把握する。
  1. 企画立案とデザイン:ユーザー視点を踏まえた製品のコンセプトやデザイン方向性を決定する。
  1. 試作・検証:試作品を通じて実際の使い勝手や不具合を検証し、改良を加える。
  1. 販売チャネル・ブランディング戦略:ECサイトや展示会、SNSなど多角的に告知。ロゴやパッケージ、ストーリー要素に一貫性を持たせてブランドイメージを統合。

3. ブランド力と長期的リピート

自社商品を展開しはじめたばかりの頃は知名度が低いですが、ブランドストーリーや高品質なデザインがユーザーの心を掴めば、リピート購入や口コミによる拡散が期待できます。長期的にはブランド力が高まり、競合との差別化がさらに進みます。ブランディングに成功すると、価格競争に巻き込まれにくくなり、自社のペースで新製品開発や市場拡大を計画しやすくなるのです。
 
実例を通して商品開発の流れを知りたい方はこちらの記事を御覧ください。

まとめ:モノづくりにデザインを掛け合わせ、ブランドを育てる

現代の製造業が抱える課題は、技術力だけでは解決しづらくなっています。ユーザーの声をくみ取り、デザイン視点からモノづくりを再考することで、製品価値やブランド価値は飛躍的に高まります。
  • デザインの役割:単なる「見た目」ではなく、ユーザー視点や体験価値を製品に反映する重要なプロセス。
  • ブランディングの意義:企業のこだわりや世界観をユーザーに伝えることで、価格競争に巻き込まれにくい付加価値を育む。
  • 自社商品・オリジナル商品開発のメリット:技術力を活かした独自性の確立、利益率アップ、長期的なブランド構築。
  • 能作に見る成功要因:伝統技術と現代的デザインの融合、製造現場のオープン化、SNSや海外市場への積極発信。
このように、「モノづくり×デザイン」の融合は製造業の新しい可能性を大きく開拓してくれます。下請けビジネスからのステップアップは一筋縄ではいきませんが、一度ブランドとして確立すれば長期的な収益と高い顧客満足度が得られるはずです。自社の商品やオリジナル商品開発、ブランディング戦略を練り直し、より多くのユーザーに価値を届けることで、製造業はこれからの時代でも強固な地位を築いていけるでしょう。
この記事を通じて、デザインの観点からモノづくりを考える意味や、製造業がブランディングを強化する意義を実感していただけたのではないでしょうか。 もし自社で商品開発やブランディングにお悩みであれば、デザイナーや外部パートナーと積極的に協業することをおすすめします。自社の強みを再定義し、ユーザーが本当に求める価値を形にする「モノづくり」として再出発すれば、新たな道が必ず開けるはずです。
少しでもデザインやブランディング、自社商品開発にご興味が出たらこちらも御覧ください。