コンセプトとデザインの関係性

商品開発のためにデザインを判断する基準とは

デザインを評価する際に最も大切なことは、「コンセプトが明確であること」です。 デザインの評価をする時に何となく「良い」や「なんか違う」と感覚的な評価をしてしまった経験はありませんか?
感覚的な評価とは個人の好みによる「主観」です。
ターゲットとなる人物像の「主観」ならまだ参考になりますが、多くの場合は会議に参加している人達が明確な考えや基準を持たずに個人の好みによる「主観」で意見を言って評価をしようとします。 このように曖昧な判断を行うことは非常に危険なアプローチであり、商品開発やプロジェクトを進めていく内に迷走してしまう可能性が高いです。
 
この問題の根底にあるのが「コンセプトの不在」です。
 
当然の事ですが、感覚的な評価だけでは、建設的な議論や効果的な改善にはつながりません。 一方で、コンセプトが明確であれば、ターゲットに最適なプロダクトデザインが議論の中から見えてきます。
 
この記事では、「コンセプトとデザインの関係性」を明らかにし、論理的なデザイン評価の進め方をご紹介します。

 
 

1. コンセプトはゴール、デザインは手段

デザインには正解が1つではありません。「かっこいい」デザインが正解のときもあれば、「かわいい」や「かっこ悪い」デザインが正解になる場合もあります。 そして、「かっこいい」という1つの表現にも、上品さワイルドさなど、無限のバリエーションがあります。
 
このように、デザインの多様性を導くのが「コンセプト」です。 私はコンセプトを「ゴール」だと考えています。
 
コンセプトとは、単なるアイデアやビジョンにとどまらず、ターゲットに与えたい印象や感じてもらいたいことを明確にすることです。このコンセプトがしっかりと定まっていないと、デザインは何を目指すべきかがわからず、評価も曖昧で主観的なものになってしまいます。 旅行の目的地が決まっていないのに、服装の相談をしている状態です。
 
そのため、私はコンセプトとゴールが似ていると考えています。
 
デザインはそのゴールに向かうための手段や方法です。 例えば、ターゲットが若い女性であれば、清潔感のある「かわいさ」が求められるかもしれません。 一方、ターゲットが中高年の男性なら、信頼感や落ち着きを重視する「かっこよさ」が必要になるでしょう。
こうしたターゲットに響く印象を与えることが、デザインの役割です。 このように、コンセプトが定まることで、デザインの方向性がはっきりするのです。 そしてデザイン評価も建設的なモノとなります。
「このデザインは良いか?」という抽象的な議論ではなく、「コンセプトに対して適切か?」という具体的な話ができるためです。評価が明確になると、デザインの改善ポイントもはっきりし、ターゲットに最適化されたデザインに近づけます。
 
デザインが成功するかどうかは、ターゲットにどれだけ効果的にメッセージを伝えられるかが重要です。たとえば、新商品開発において
「使いやすさを最優先する」
「持続可能性を訴求する」
「プレミアム感を強調する」
といったコンセプトを設定することが考えられます。 この指針が明確でないと基準が曖昧になり、デザイン評価が感覚的な判断に依存してしまうことになり、結果として関係者間の意見が分かれたり、方向性がぶれてしまいます。
 
そのような状況を防ぐためにコンセプトを正しく設定し共有することで、商品開発やクリエイティブ制作をスムーズに進め、チーム全体が同じ目標に向かって進むことが可能になります。
 
そのため、まずはコンセプトを固め、全員で共有し理解した上でデザインを評価するという順番を守ることが大切です。ゴールに行くためにこの手段は適切かという判断を行えばいいのです。

 

2. 「なんか違う」を回避するためのコンセプトの必要性

私の経験上、コンセプトの重要性を共有できないまま商品開発やデザインを進めると、評価の場で「なんか違う」という曖昧なフィードバックが返ってくることが多いです。これはプロダクトデザインを行う上で非常に困難な状況を生み出します。
 

「なんか違う」という言葉が指す曖昧さ

以下のような点が把握されていないために、「なんか違う」という言葉が生まれます:
  • ターゲットにどのような印象を与えるべきか
  • デザインが意図する感情や反応は何か
  • このデザインがプロダクトのゴールに適しているのか
 

「なんか違う」の具体的な問題点

コンセプトが不明確な状態では、次のような問題が発生します:
  • チームメンバー間で評価基準が異なり、議論が噛み合わない。
  • デザインの方向性が迷走し、時間やコストが浪費される。
  • 結果として、顧客やユーザーに伝わりにくいプロダクトが完成する。
 
コンセプトが欠如していると、デザインプロセス全体が「個人の好み」に左右される危険性があります。プロジェクト関係者が共通の基準を持たないまま議論を進めると、結果的に無駄な修正が増え、全体的な効率が大幅に低下します。
 

「なんか違う」が頻発する理由

デザインは誰でも意見を言える分野であるため、「明確な答え」が存在する数学や物理とは異なり、議論が感覚的になりがちです。意見を求められると、何かを言わなければならないというプレッシャーから主観的な発言が増え、それが「なんか違う」という曖昧な表現に繋がるのです。

 

3. ターゲットとコンセプト:デザインを有効にする方法

では、どのようにすれば「なんか違う」を避け、ターゲットに響くデザインを生み出せるのでしょうか?その答えは、コンセプトを具体化することです。

コンセプトの中核とは?

  1. ターゲットを定める
      • 誰がこのデザインを見るのか?
      • 年齢、性別、ライフスタイルなど、明確なターゲット像を設定します。
       
  1. 与えたい印象を定義する
      • ターゲットにどんな印象を与えたいのか?
      • 例:安心感、楽しさ、信頼感など。
       
  1. 期待する反応を明確にする
      • ターゲットがデザインを見たとき、どのように感じてほしいのか?
      • 例:購入意欲を高める、自社ブランドへの共感を抱かせる。
       
これらを明確にすることで、デザインを評価する際の基準が個人の感覚ではなく、論理的な根拠に基づくものとなります。

 

4. コンセプトを軸にデザインの方向性を決める

コンセプトが決まると、デザインの要素選びが論理的かつ効率的になります。 具体例を挙げると次の通りです。
 

「上品で信頼感のあるブランド」の場合

→ 色彩:ネイビーやホワイトなどの落ち着いたカラーを採用。
→ フォント:シンプルで洗練されたフォントを使用し、高級感を演出。
→ 素材:高品質感を演出するマットな質感。
→ レイアウト:余白を多く使い、視覚的な安定感を高める。
 

「若々しくエネルギッシュなブランド」の場合

→ 色彩:ビビッドな赤や黄色など、エネルギーを感じさせるカラー。
→ フォント:大胆なデザインや遊び心のあるフォント。
→ 素材:カジュアルさを感じさせる光沢のある質感
レイアウト:動きやリズムを感じさせる大胆なデザイン。
 
このように、コンセプトが明確であれば、色彩・フォント・素材・レイアウトといった要素が共感を得ながらスムーズに選定できるため、ブレのないデザインが完成します。 また、評価の際も「ターゲットに響くデザインか?」という観点で話し合うことができるため、無駄な修正を防ぐことができます。

 

5. コンセプトに基づくデザイン評価の実践例

コンセプトがしっかりと共有されている場合、デザイン評価も具体的かつ論理的に行うことができます。

エコでサステナブルなブランドの場合

ある企業が「エコでサステナブルなブランド」を目指すコンセプトを設定したとします。 この場合、以下のような視点で評価を行います。
 
  • 色の選定:自然をイメージさせるグリーンやアーストーンが適切か?
  • ロゴデザイン:無駄を省き、シンプルでサステナブルな形状が採用されているか?
  • フォント:素朴さや自然な印象を与えるフォントを使用しているか?
 
これらの評価基準を設定することで、誰もが同じ基準でデザインを見ることができ、具体的な改善点を議論することができます。そのためフィードバックも具体的になります。 たとえば「この色では自然らしさが弱い」といった意見が出れば、建設的な修正が可能になります。
このようなプロセスを経て、ターゲットに効果的なデザインに近づけるのです。

 

6. デザインを論理的に進めるということ

デザインはアートではありません。アートが感情や自由な表現を求めるものである一方で、デザインは特定の目的を達成するための手段です。そのため、感情的な議論ではなく、論理的なプロセスが必要です。
 

建設的な議論のために必要なこと

  • 共通の基準を設定するコンセプトをチーム全員で共有し、評価のベースとする。
  • 改善点を具体的に言語化する「なんか違う」を避け、「ターゲットに合っていない」「印象が強すぎる」など、具体的な改善点を挙げる。
  • デザインの意図を明確に説明するデザイナー側も、なぜこのデザインがゴールに適しているのかを説明する。

 

7. まとめ:コンセプトを核に据えたデザインが商品開発を成功に導く

デザインの評価が主観的になり、「なんか違う」に陥る原因は、コンセプトの不在です。 ターゲットを明確にし、与えたい印象や期待する反応を定義することで、デザインの方向性は定まり、評価基準も論理的になります。そのプロセスを経たプロダクトは完成度の高い商品となります。
 

私たちはアートではなく、デザインを作っています。

 
その目的は、ターゲットに有効な印象を与え、ゴールを達成することです。感情的ではなく論理的に進めることで、より良い結果が得られるでしょう。

 

8. お問い合わせ

もしここまで読んで共感していただき、デザインの評価やコンセプト設計にお困りの方がいれば、ぜひお気軽にご相談ください! 私は、企業の課題に合わせたデザイン戦略を一緒に考え、より良いデザインを実現するお手伝いをしています。ターゲットに合ったコンセプト設計からデザインの改善まで、全力でサポートいたします。