プラスチックの加飾|パッド印刷の特徴と選び方をプロダクトデザイナーが解説

はじめに
プラスチック製品にロゴやデザインを入れるとき、「どんな印刷方法を選べばいいんだろう?」と悩んだことはありませんか?
プラスチック製品にロゴやデザインを印刷する方法には、いくつかの代表的な技法があります。
中でも「シルク印刷」と「パッド印刷」は非常によく使われる定番の方法です。
この記事では、そのうちのひとつ「パッド印刷」について、特徴やシルク印刷との使い分け、注意点などをプロダクトデザイナーの視点から解説します。
ただし、この記事で一番伝えたいのは、「パッドがいいか、シルクがいいか」という話はあくまで手段の話だということ。
一番大事なのは、「どんなデザインを、どのように仕上げたいのか」という目的です。
加飾方法の選定は、最終的には協力工場と相談して決めるのがベスト。現場の方が設備状況や細かい制約に詳しいですし、判断材料も多いからです。
その上で、依頼する側として最低限知っておくべき基礎知識として、この記事が役に立てば嬉しいです。
パッド印刷とは?基本の仕組みと特徴
まずはパッド印刷の基本的な仕組みから。
パッド印刷は、「凹版」と呼ばれるくぼんだ版にインクを流し込み、シリコン製の柔らかいパッドでそのインクを拾って製品に転写するという仕組みの印刷方法です。
シリコンパッドが形状に合わせて変形するため、凹凸のある形状や曲面にも印刷できるのが最大の特徴。
なお、パッド印刷は「タンポ印刷」と呼ばれることもあります。
呼び方が違うだけで、基本的には同じ技術です。
業界や工場によって使う名称が異なるケースです。
シルク印刷とパッド印刷の使い分け|基本の考え方
「平面か曲面か」が最初のヒント
まずよく言われるのは、
- 平面 → シルク印刷
- 曲面 → パッド印刷
という使い分けです。
これは間違っているわけではなく、最初の判断のヒントとしては妥当です。
実は「高さ方向の凹凸」が大きな判断ポイント
ただし、現場で実際に判断する際には、もっと別の視点が重要になります。
それが「高さ方向の凹凸」です。
- シルク印刷は、版を製品に密着させてインクを落とす構造なので、深い凹みや段差、シボ(表面のザラザラ)などがあると、うまく密着できず印刷が難しくなります。
- 逆に、表面が滑らかで、多少の曲面ならシルク印刷でも十分対応できるケースが多いです。
例えば、円筒形のボトルやパッケージなら、製品を回転させながらシルク印刷ができます。
つまり、単純に「平面か曲面か」というよりも、表面の凹凸や段差の有無がシルクとパッドの使い分けに大きく影響する、というのが現場のリアルです。
「平面でもパッド」「曲面でもシルク」になるケースとは?
平面でもパッド印刷を選ぶ理由
平面であっても、以下のような理由でパッド印刷が選ばれることがあります。
- 小さなロゴや細かい文字をきれいに出したいとき
- 製品の形状が完全な平面ではなく、微妙に傾斜や曲面が含まれている場合
- 製品の固定がしづらく、パッドの方が印刷しやすい場合
- 協力工場の設備やラインの都合。パッドは版と違って使い回しが基本なので、その在庫状況や工場の稼働状況によってパッドが選ばれることもある
ただし、印刷面積が広くなると、大きなパッドが必要になり、そのぶん変形やたわみが発生しやすいため、注意が必要です。
曲面でもシルク印刷が使える例
逆に、「曲面でもシルク印刷でいける」ケースも意外と多いです。
- 円筒形のボトル:製品を回転させることで、シルク印刷が可能
- 緩やかなカーブ:シルク版をある程度しならせて対応できる
- 表面が滑らかで段差や凹みがなければ、カーブでも問題ない
▼ 実際のプロジェクトでの判断
技術的なセオリーだけではなく、デザインの意図によって例外的な選択をすることもあります。
私が担当したあるアウトドア用品のプロジェクトでは、その典型的なケースがありました。
製品にハードな印象を持たせるために、あえてシボが強い面にシルク印刷を選択したんです。
打ち合わせの段階では、協力工場から「このシボ面ならパッド印刷の方がきれいに印刷できます」と提案されました。確かに、普通に考えればその選択が正解です。
でも、この時は「きれいに印刷されなくてもいい」というデザインの狙いがありました。
むしろ、印刷の欠けやかすれがある方が、“ハードな雰囲気”を表現できると考えたからです。
現場としては、欠けやムラは不良品のリスクになるので慎重になります。
そのため「今回は欠けても問題ない。それがデザインの一部です」という意図をしっかり共有した上で、最終的にシルク印刷を選択しました。
このように、加飾の選定は単に「仕上がりの綺麗さ」だけではなく、どんな印象を与えたいのか、どう見せたいのかが判断基準になります。
パッド印刷のメリットと注意点
◎メリット
- 曲面・凹凸がある形状に強い
- 小さな文字やロゴの再現性が高い
- 印刷位置の微調整がしやすい
△注意点
- 大きな面積には不向き。パッドが大きくなるほど歪みやムラが出やすい
- 多色印刷は色ズレのリスクが高まる
- インクの密着は素材や表面仕上げの影響を受けやすい
- 色合わせが難しいケースもある
加飾方法の選び方|一番大事なこと
ここまで、シルク印刷とパッド印刷の特徴や使い分けの話をしてきましたが、一番大事なのは「どの技法を使うか」ではありません。
「どんな仕上がりを求めるのか」を明確にすることです。
私の経験上、最終的にどの方法が選ばれるかは、次のような現場の状況によって変わります。
- 工場の設備やラインの状況
- パッドや版の在庫
- 職人さんの得意不得意
欲しいのは“印刷の方法”ではなく、“仕上がりのクオリティ”。
手段はどちらでも良い、というのが本音です。
だからこそ、依頼する側として一番大事なのは、「何をどんなふうに印刷したいのか」をしっかり伝えること。
- どこに、どんなデザインを入れたいのか
- どういう質感や見え方を求めているのか
これがしっかり伝われば、どの工場も最適な方法を提案してくれます。
まとめ
- パッド印刷は曲面や凹凸のある製品に強い加飾技法。
- ただし、万能というわけではなく、大きな面積や多色刷りには向かない場合もある。
- シルク印刷とパッド印刷の使い分けは、形状の凹凸や工場の状況によって変わる。
- 加飾方法の選定は、協力工場と相談して決めるのがベスト。
- 私たち依頼側がやるべきなのは、「何をどんな風に印刷したいのか」という完成形のイメージを正確に伝えること。
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