なぜ【丸み】のあるデザインは親しみやすいのか?心理と製造技術から解説

丸みのある親しみやすいデザイン

はじめに

デザインの世界では、丸みを帯びた形状が“親しみやすい”“安心感を与える”とされ、多くのプロダクトやグラフィックデザインに取り入れられています。スマートフォンの丸い角や、車の柔らかなフォルム、椅子のカーブしたデザインなど、身の回りに例はたくさんあります。では、なぜ丸みのあるデザインは私たちにとって親しみやすく感じられるのでしょうか?この記事では、その心理的・実用的な理由を紐解いていきます。
そもそもデザインとは?と気になる方はこちらの記事を御覧ください。

丸みのあるデザインとは何か?

丸みのあるデザインとは、言葉通りですが鋭角や直線を避け、曲線や滑らかなフォルムを多く取り入れた形状のことを指します。この形状は、視覚的に穏やかで調和が取れており、心理的な安心感を与える特性があります。

心理学から見る“丸み”の効果

心理学の視点からのアプローチ

この記事では、心理学の視点を通じて丸みがどのように私たちに安心感や親しみやすさを与えるのかを探ります。心理学と言っても学術的な話ではなく、人間の進化や本能が形状に対してどのように反応するのかという視点に基づいて、プロダクトデザイナーとしての考えをまとめています。鋭利な形状に対する警戒心や、丸みを持つ形状に対する親近感は、私たちが長い歴史の中で培ってきた感覚の一部であり、デザインが与える印象にも大きく影響を与えています。

自然界に少ない直線とその印象

自然界には完全な直線や鋭利な形状がほとんど存在しません。そのため、人間の本能として直線や鋭利なものには違和感を覚えやすいと言えます。この違和感は、進化の過程で「見慣れないもの=危険」という感覚を養ってきた結果かもしれません。
一方で、直線が人工物において重要な役割を果たしてきたことも事実です。たとえば、古代エジプトのピラミッドやギリシャ建築では、直線や鋭角が精密に作られたことで「計算された美しさ」や「技術の偉業」を象徴していました。当時は直線を加工する技術が非常に難しく、それが建築物の価値をさらに高める要因となっていました。
現代では技術の進化により、直線や鋭利な形状を容易に加工できるようになり、直線的なデザインは一般的なものとなりました。このように、直線が持つ「新しい価値」は時代とともに変化し続けているのです。
また、直線や鋭利な形状には「危険」というイメージだけでなく、「先進的」や「緊張感」といったポジティブな印象も伴います。特に、人工物としてのデザインにおいて直線や鋭利な形を用いると、モダンさや未来感を演出することができます。このように、自然界には少ない直線や鋭利な形状は、違和感を逆手に取る形で新しい価値観を引き出すデザイン要素にもなり得るのです。

時間が生む安心感

丸みのあるデザインは、時間の流れと安定感を象徴するとも言えます。たとえば、川原の石は長い年月をかけて川の流れや石同士がぶつかり合い、角が削れて滑らかな丸みを帯びています。この自然のプロセスは、見た目だけでなく触り心地にも安心感を与える要素です。一方で、土砂崩れなど大きな変化が起きた直後の石や地形には鋭い角が多く見られ、不安定さや危険を感じさせます。
こうした自然界の現象は、私たちが丸みのある形状に「時間の経過が生む穏やかさ」や「安定感」を感じる理由のひとつです。この感覚をデザインに応用することで、ユーザーに安心感や信頼性を伝えることができます。

種の保存と丸み

生物の本能として「種の保存」があります。この本能において赤ちゃんの存在は欠かせません。そして、赤ちゃん(人間に限らず多くの動物)が持つ特徴は、丸みを帯びた形状です。丸い顔、大きな目、柔らかな体のフォルムは、「守りたい」「安心できる」といった感情を引き起こします。
この形状への親しみやすさは、進化の過程で本能として刻まれてきた可能性があります。赤ちゃんが丸い理由を私は知りませんが、その形状が結果的に私たちに丸いものへの安心感や親しみやすさを抱かせる一因になっていると考えられます。この視点をデザインに応用することで、ユーザーの本能的な感情に訴える親しみやすいデザインを生み出すことが可能です。

安全性と感覚的な親しみやすさ

進化の過程で「鋭角なもの」に対して警戒心を抱くようになった私たち人間は、鋭角な形にストレスや緊張を感じる一方で、丸みのある形状に対してはリラックス効果や穏やかさを感じます。この本能的な反応が、丸みのデザインに親しみやすさを与える重要な要因です。
さらに、丸い形状は視覚的に滑らかで連続性があるため、目に優しく自然に動きを追いやすい特徴を持ちます。これにより、丸みのデザインは「柔らかい」「心地よい」といったポジティブな感覚を引き起こしやすいとされています。

製造現場から見た丸みのデザイン

丸みのあるデザインは心理的な効果だけでなく、製造面でもいくつかの利点があります。

1. 製造技術の進化

ピラミッドの頃は難しかった直線や鋭角を持つデザインも現代では加工しやすいとされています。さらに近年の製造技術の進化により、複雑な曲線や丸みを持つ形状も容易に作れるようになりました。たとえば、金型加工や3Dプリント技術がその代表例です。
これらの技術は、デザインの自由度を大幅に向上させるだけでなく、コスト効率や生産性の向上にも寄与しています。特に自動車や家電製品では、これらの技術を活用して美しい丸みを実現しつつ、耐久性や機能性を高めています。

2. 滑らかさの追求と力の分散

滑らかな形状は、視覚的な美しさだけでなく、応力集中を緩和し、構造物の耐久性を向上させる効果があります。
  • 応力集中の緩和: 直角や鋭利な形状は、外部からの力が一箇所に集中しやすく、ひび割れや破損の原因になりやすいのが特徴です。これに対し、丸みを帯びた形状は力を均等に分散させることで、応力が一点に集中するのを防ぎます。この特性は、橋やアーチ構造の設計において重要な役割を果たしており、建築物の長期的な耐久性を確保するための基本原則となっています。
さらに、工業製品でもこの特性が活用されています。たとえば、ヘルメットや衝撃吸収バンパーのように衝撃を分散させる必要がある製品では、丸みを帯びたデザインが安全性と耐久性の両立を可能にしています。また、航空機や船舶の設計においても、丸みを持たせることで空気抵抗や水の抵抗を減らしつつ、応力集中を防ぐデザインが採用されています。
  • 素材の保護とサステナビリティ: 応力を緩和する丸みの形状は、素材の劣化を遅らせる効果もあり、結果として製品寿命を延ばすことができます。この特性は、長期間にわたる使用を前提とした製品やインフラストラクチャにおいて特に重要であり、環境負荷を軽減するサステナブルなデザインの基盤とも言えます。
現代では、滑らかな曲線を追求する動きが加速しています。専門的には「G1連続」や「G2連続」といった概念が重要視され、これらは曲線の滑らかさを定義する指標となります。
  • G1連続: 接線(滑らかさ)が一致することを指し、デザイン表面の連続性を保つための基準となります。
  • G2連続: 曲率(カーブの変化率)が一致することを指し、より自然で滑らかな表面を実現するために重要です。
滑らかな形状は、視覚的な美しさだけでなく、応力集中を緩和し、構造物の耐久性を向上させる効果があります。
例えば、車のデザインはその象徴であり、空気抵抗を抑え、エネルギー効率を高めるために流線型のフォルムが採用されています。こうした滑らかな形状は、力を分散し、安全性を向上させると同時に、美しいフォルムを実現しています。

3. 車の安全性と丸み

最近の車のデザインでは、車内の乗員だけでなく、歩行者や衝突相手の安全も考慮されています。このため、車体には丸みを帯びた形状が取り入れられ、クッション性を高める設計が進められています。一方で、デザイン的に直線を必要とする場合もあり、フロントグリルやライトなどに工夫して取り入れることで、親しみやすさと洗練された印象を両立させています。

丸みデザインの未来

丸みのあるデザインは、これからも進化を続けていくでしょう。AIやデジタル技術が発展する中で、ユーザーの心理や動作をより深く分析したデザインが登場する可能性があります。例えば、車の滑らかなフォルムや家具の柔らかいエッジは、調和と機能性を両立する象徴的な存在です。
さらに、サステナブルなデザインの観点からも、丸みのある形状は効率的な材料使用や再利用性の高さが注目されています。このように、丸みのデザインは心理的な安心感だけでなく、環境や社会への貢献を見据えた形でその可能性を広げています。

結論:丸みが生む親しみやすさを活かすには

丸みのあるデザインは、心理的な安心感を与えるだけでなく、実用性や製造技術の進化とも深く結びついています。デザインにおいて重要なのは、その親しみやすさをどのように目的や用途に合わせて活かすかです。丸みを取り入れることで、製品の魅力を高めるだけでなく、ユーザーにとって使いやすく愛されるデザインを実現することができるでしょう。

親しみやすさとは反対に力強いデザインとはどのようなものでしょうか?
 
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