ステンレスとは?錆びにくい理由・鉄との違い・特徴をプロダクトデザイナーが解説

ステンレスが合金素材というイメージで特徴を伝える

はじめに

「ステンレスって錆びない金属でしょ?」 そんなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
「鉄はFe、アルミはAl、銅はCu。じゃあステンレスの元素記号って?」
実は、ステンレスという名前の“元素”は存在しません。
ステンレスは、鉄(Fe)をベースに、クロム(Cr)やニッケル(Ni)などを加えた合金です。 つまり、単体の素材ではなく、複数の金属を組み合わせて性質を調整した“複合素材”です。
私たちの身の回りには「ステンレス製」と書かれた製品がたくさんありますが、実際にはその性質や種類について意外と知られていません。
この記事では、プロダクトデザイナーの視点から、ステンレスの基本的な仕組みや性質、用途ごとの素材選定のポイントまで、分かりやすく解説していきます。
SPCCなど板金素材についてもまとめています。

ステンレスとは?

実は「鉄」がベースの合金素材

ステンレス(Stainless Steel)はその名の通り、“ステイン=汚れ・錆”に“レス=少ない”という意味を持つ鉄鋼材料です。
つまり、「錆びにくい鉄」と言えます。
ベースは鉄(Fe)で、そこに主にクロム(Cr)ニッケル(Ni)を加えることで、表面に不動態皮膜という酸化膜を形成します。 この皮膜は非常に薄い膜ですが、空気や水分から内部の鉄を守る「バリア」の役割を果たしています。
そのおかげで、私たちは「ステンレスは錆びにくい」と感じているのです。

鉄との違いはどこにある?

普通の鉄(たとえばSPCCなどの炭素鋼)は、水や酸素にさらされるとすぐに酸化して赤錆になります。 しかし、ステンレスは表面に酸化クロムの皮膜を作ることで、腐食を防いでくれる点が最大の違いです。
ステンレスには以下のような特徴もあります。
  • 耐食性に優れる(酸・アルカリにも強い)
  • 磁性の有無が種類で異なる(SUS304は非磁性、SUS430は磁性あり)
  • 加工性はやや劣る(特に曲げや絞りでバネ戻りが大きい)

ステンレスの定義と分類

JIS(日本産業規格)では、ステンレス鋼は「SUS」という記号で表記されます。 これは、英語の「Steel Use Stainless」を略したもので、主に工業用ステンレス鋼を示す材料記号です。
ステンレス鋼(stainless steel)は、鉄(Fe)を主成分として50%以上含み、クロム(Cr)を10.5%以上、炭素(C)を1.2%以下含む合金と定義されています。(ISO 15510やJIS G 4303などで規定)
このクロムが空気中の酸素と反応して酸化クロムの保護膜(不動態皮膜)を形成し、腐食から鉄を守ることで、ステンレスは「錆びにくい金属」としての性質を持ちます。
用途に応じてニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)、チタン(Ti)などを加えることで、耐食性や強度、加工性などを調整可能です。
JIS規格では、ステンレス鋼は「SUS」という記号とともに番号で分類されています。 たとえば、「SUS304」とあれば、オーステナイト系ステンレスである304番の鋼種を指します。 番号は材質や特性によって分類されており、以下のような系統があります。
  • 200番台(SUS201など):ニッケルの代わりにマンガン(Mn)を多く含む。コストを抑えた代替素材。私自身、現場ではあまり見かけたことがありません。
  • 300番台(SUS304、SUS316など):オーステナイト系。耐食性・加工性に優れ、最も広く使われる。磁性なし。
  • 400番台(SUS430など):フェライト系またはマルテンサイト系。磁性あり、耐熱性に優れる。
  • 600番台(SUS630など):析出硬化系。高強度を必要とする機械部品・航空機部品などに使用。

ステンレスの主な構成元素とその役割

ステンレスは、主に以下のような元素で構成されています:
  • Fe(鉄):素材のベースとなる成分。
  • Cr(クロム):10.5%以上添加されることで不動態皮膜を形成し、耐食性を生む。
  • Ni(ニッケル):オーステナイト構造を安定化し、耐食性や加工性、靭性(粘り強さ)を向上させる。

ニッケル(Ni)はエナジードリンク?ステンレスの“元気の源”

Ni(ニッケル)は、ステンレスの中では補助的な役割を担う元素ですが、これが加わることで素材としての性能が大きく向上します。
特に、クロム(Cr)が作り出す不動態皮膜の安定性を高めるという点で重要です。
この関係を例えるなら、Niはエナジードリンクのようなものと考えてもいいかもしれません。 Niが含まれていなくてもステンレスと分類されますが、入っていると明らかに「元気になる」
加工性・耐食性・靭性などが向上し、特にSUS304のようなオーステナイト系ステンレスではNiの効果が重要なポイントになります。
人間が「ちょっと疲れたけど、エナジードリンクを飲んで回復する」ように、Niはステンレスをよりタフに、よりしなやかにしてくれるのです。

人間のように自然治癒する素材?ステンレスの“自己修復力”

「人は皮膚に怪我をしても、血小板や赤血球の働きでかさぶたができて、やがて元通りになる」
実は、ステンレスにもそれに似た“自然治癒力”のような性質があります。
前述の不動態皮膜は、もし加工時の切断や使用中の傷などで一部が壊れたとしても、材料中に含まれるクロムが空気中の酸素と再結合し、新たな酸化皮膜を形成してくれます。
つまり、クロムがある限りステンレスは“自己修復”しながら錆びにくさを保ち続けることができるのです。
たとえば塗装やめっきのような表面処理は、一度剥がれてしまうとその機能は失われてしまいますが、ステンレスの場合は剥がれても再生するという特性がある点で大きな違いがあります。
この特性は、デザインや製品設計の現場でも「長く美しさを保ちたい」「表面が傷ついても安心して使える」といった用途に非常に重宝されます。
表面処理とステンレスの違いを説明

本当に高級素材?「18-8ステンレス」とは?

食器や調理器具の裏面に「18-8」と刻印されているのを見たことはありませんか? これは、クロム(Cr)とニッケル(Ni)の含有量を示しています。
  • 18-8ステンレス → クロム18%、ニッケル8%
この比率を持つステンレスはSUS304であり、最も広く使われているステンレス鋼種です。 その優れた耐食性や加工性から、調理器具・食器・医療器具など、衛生面と信頼性が求められる場面で多く採用されています。

業界によって異なる「18-8ステンレス」の見え方

たとえば、店頭で商品を選んでいると、「これは18-8ステンレスなので高級ですよ」と説明を受けることがあります。家庭用品の世界では、確かに美しく錆びにくい18-8は“高級素材”として扱われています。
一方で、製造業の現場ではSUS304はもっとも一般的な材料のひとつ。 流通量が多く価格も安定しているため、試作や量産を依頼する際に常に在庫がある安心感があります。
同じ素材でも、立場が変わると“高級”にも“標準”にも見える。 こうしたギャップは、素材選定の面白さのひとつでもあります。

表面仕上げの選択で印象が変わる

ステンレス素材は品番(例:SUS304)によって基本特性を選定できますが、そこからさらに表面仕上げを指定することで、意匠や用途に合った外観を実現できます。
  • 2B仕上げ:最も一般的なつや消し仕上げ。工業部品など意匠性を求めない用途では基本的にこれ。
  • ヘアライン仕上げ(HL):一定方向に細かいラインが入った仕上げ。高級感や落ち着いた印象を与える。
  • BA仕上げ(鏡面仕上げ):高い光沢を持つ滑らかな仕上げ。見た目の美しさが重要な製品に適している。
プロダクトデザイナーの視点でも、同じSUS304でも仕上げの違いによって見た目や触感、印象が大きく変わるため、製品の用途や使用シーンに応じた選定が非常に重要です。

まとめ

ステンレスは、鉄にクロムやニッケルなどを加えて錆びにくくした“合金素材”です。
  • 不動態皮膜による耐食性
  • ニッケルによる靭性や加工性の向上
  • 用途に合わせた仕上げの多様性
上記の特徴から、幅広い製品に採用されています。 日常でよく目にする「18-8ステンレス」も、視点を変えると“高級素材”にも“標準材料”にもなる。 その本質を理解することで、より適切な素材選びができるようになるはずです。