アルミの特徴と強み|軽さ・強度・加工性・合金の違いをプロダクトデザイナーが解説

アルミの種類や特徴を解説

はじめに

アルミニウムは、私たちの生活に広く浸透している金属素材です。 軽量で錆びにくく、加工しやすいという特性から、家庭用品や自動車部品、電子機器、建材など、幅広い分野で活用されています。
製造方法も多岐にわたり、板材を曲げて形をつくる「板金加工」だけでなく、精密部品に使われる「切削加工」、大量生産向けの「鋳造」など、用途や目的に応じたさまざまな工法で活用されているのが特徴です。
この記事では、アルミという素材の特性を整理しながら、代表的な合金の違いや加工方法ごとの注意点、仕上げ処理の選択肢について、プロダクトデザイナーの視点から紹介します。
SPCCなど板金素材についてもまとめています。
SUSについてはこちらの記事で書いています。

アルミの主な特徴

アルミは、金属としてはめずらしく「軽さ」「錆びにくさ」「加工しやすさ」といった性質を併せ持っており、製品設計やデザインの自由度を高めてくれる素材です。ここでは、実際のモノづくりで特に意識される主な特徴を整理します。

軽い(比重2.7)

比重が約2.7と非常に低く、鉄(約7.8)の1/3ほどしかありません。これは、同じ体積で比べた場合に1/3の重さで済むということを意味します。軽量化が求められるモバイル機器や車両部品では大きなメリットになります。

錆びにくい(酸化被膜による自己保護)

空気中で自然に酸化被膜(アルミナ)を形成します。この被膜が内部の金属を覆うことで、鉄のように赤く錆びることがほとんどありません。屋外や水回りでも使いやすく、外観の長期維持にも貢献します。

加工しやすい(延性・展性が高い)

アルミは比較的柔らかく、変形に強い金属です。曲げ、絞り、切削など多様な加工に対応でき、製造方法の選択肢が広がります。ただし、合金の種類によっては硬さや加工性に差があるため、目的に応じた選定が重要になります。

熱・電気をよく通す

ヒートシンクや電子機器の筐体など、熱や電気の効率的な伝達が必要な用途にも向いています。

磁性を持たない(非磁性体)

磁場の影響を避けたい医療機器や電子装置などに適しています。

よく使われるアルミ合金の特徴

アルミと一口に言っても、実際に使われているのは「アルミ合金」がほとんどです。 純粋なアルミニウム(純アルミ)は柔らかすぎて強度に乏しいため、用途に応じてマグネシウム、シリコン、銅、亜鉛など他の元素を加えた「合金」として使われるのが一般的です。 JIS規格では1000番台から7000番台までに分類され、それぞれに特徴があります。

1000番台(純アルミ系)

A1050など
  • アルミ含有率99%以上の純アルミニウム
  • 軽くて加工性に優れるが、強度は非常に低い
  • 展示什器、化粧パネル、反射板など、強度よりも加工性や見た目を重視する用途に使われる

2000番台(Al-Cu系)

A2017など
  • 銅を添加した高強度合金(ジュラルミンとしても知られる)
  • 機械加工性・切削性が良く、強度が求められる構造部材向き
  • 耐食性が劣るため、表面処理(アルマイトなど)を前提とすることが多い
  • 航空機部品や自動車部品など、軽量かつ強度が求められる場面で使用される

3000番台(Al-Mn系)

A3003など
  • マンガンを加えた合金で、耐食性が高く加工性も良好
  • 強度はやや低めだが、成形性に優れ家庭用品や建材に多用される
  • 主に非構造用途向け(屋根材、調理器具など)

4000番台(Al-Si系)

A4045など
  • ケイ素(シリコン)を加えた合金で、耐摩耗性や熱膨張の低さが特徴
  • 鋳造やろう付け用素材、エンジン部品、ヒートシンクなど熱まわりの用途に多い
  • 見た目がやや暗めのグレー調になる傾向もあり、意匠用途では注意が必要

5000番台(Al-Mg系)

A5052など
  • マグネシウムを加えた合金で、耐食性・加工性・溶接性のバランスが良い
  • デザイナーが「アルミ」と聞いて想定するのは、この5052が多いかもしれない
  • 筐体部品や装飾板など多用される

6000番台(Al-Mg-Si系)

A6061など
  • マグネシウムとシリコンを加えた熱処理が可能な合金で、高強度と加工性を両立
  • 切削や溶接にも適しており、機械部品や構造材にも使われる
  • 強度を求める場面で採用されやすい

7000番台(Al-Zn-Mg系)

A7075など
  • 亜鉛を主成分とする高強度アルミ合金
  • 2000番台よりさらに強く、航空機やスポーツ用品、機械構造材など強度が極めて求められる場面で使用
  • 熱処理によって大きく性質が変わる「析出硬化型」
  • 耐食性に課題があるため、使用環境や表面処理の設計が重要
  • 過去には「超ジュラルミン」と呼ばれた経緯もあり、この名前の印象から2000番台と混同されやすい
番台主な添加元素特徴主な用途
1000番台なし(純アルミ)柔らかく加工性◎、強度△展示・装飾・電気用途
2000番台高強度・耐食性△航空・機械部品
3000番台マンガン耐食性◎・成形性◎建材・調理器具
4000番台ケイ素熱特性◎・見た目注意ヒートシンク・ろう付け
5000番台マグネシウム板金向け・耐食性◎筐体・外装・看板
6000番台Mg + Si高強度・加工性◎フレーム・切削部品
7000番台亜鉛超高強度・耐食性△航空・スポーツ・構造材

ジュラルミンとは? ― 歴史と呼称の背景を知る

「ジュラルミン」という言葉は、日本でも昔からよく耳にする素材のひとつです。 ただし、実際にその正体を詳しく説明できる人は、意外と少ないのではないでしょうか。 強いという印象を持っている人が多いジュラルミンですが、実は弱い印象を持たれているアルミニウムの合金です。

発祥はドイツ、開発は1910年代

ジュラルミン(Duralumin)は、1910年代にドイツで開発されたアルミと銅を主成分とするアルミ合金です。軽くて高強度な金属として航空機分野で革命を起こしました。 ドイツの研究者アルフレッド・ウィルム (Alfred Wilm) は1906年にアルミニウム合金の時効硬化現象(放置による硬化)を発見し、1907年に特許を出願しました。 その合金は1909年に工業生産が開始され、商品名「ジュラルミン」と名付けられました。

日本ではA2017(旧JIS:ジュラルミン)が代表格

日本では、JIS規格が整備される過程で、Al-Cu系の代表合金であるA2017が「ジュラルミン」と呼ばれてきました。 かつての旧JISでは正式に「ジュラルミン」と表記されていたこともあり、今でもこの名前のイメージが強く残っており、通称として使われることがあります。

「超ジュラルミン」と「超々ジュラルミン」の開発背景

その後、より高強度な超ジュラルミン(A2024)、さらに高強度な超々ジュラルミン(A7075)が開発されました。混同されがちですがそれぞれ成分や性質は異なる合金です。
このジュラルミン開発の背景には、時代的にも戦争が関連しています。 ジュラルミン開発から約20年後の1930年代に、各国でさらなる高強度アルミ合金の研究競争が起こり、アメリカのアルコア(Alcoa)社は1931年にジュラルミンを改良した新合金24S(のちのA2024)を開発しました。
この合金は従来より銅とマグネシウムの含有量を増やすことで引張強さ45 kgf/mm^2(約440 MPa)以上を達成し、当時「24S」として知られましたが、日本ではその高強度ぶりから「超ジュラルミン」とも呼ばれました。実際、A2024(超ジュラルミン)はジュラルミン(A2017)よりも銅とマグネシウムの含有量が多く、強度が一段と高い反面、耐食性はやや低下するという特徴があります。
 
一方、日本でもアルコアの24Sに刺激を受けてさらなる高強度材の開発が進められました。 日本海軍はアルコア24Sより高強度(目標は引張強さ60 kgf/mm^2以上、約590 MPa)の新合金を要求し、住友金属では1935年から五十嵐勇博士らのチームが研究を開始しました。
その結果、1936年には特許出願が行われ、極めて短期間で世界最高水準の強度を持つ合金の開発に成功します。この合金こそ日本発の「超々ジュラルミン」で、英語では Extra Super Duralumin(略称ESD)とも呼ばれました。
超々ジュラルミンはアルミニウムに銅・マグネシウムに加えて亜鉛を含む系統(7000番台)の合金で、開発当時、アルミ合金中で世界最高の強度を示しました。住友金属開発の超々ジュラルミンは零式艦上戦闘機(零戦)の主翼に採用され、軽量化と耐弾性の大幅向上によって戦闘機の性能を飛躍的に高めたことが知られています。
この日本の超々ジュラルミンの存在は後に海外にも大きな影響を与えました。 第二次世界大戦中の1942年、米軍がアリューシャン列島で無傷の零戦を鹵獲し詳細に調査したところ、主翼に当時米国の24Sを上回る強度の日本製「超々ジュラルミン」合金が使われていることが判明します。
これを受けてアルコア社はその成分を手掛かりに、1943年に新合金75S(後のA7075)を開発しました。75SことA7075は、日本の超々ジュラルミンで効果が確認された微量のクロム添加を同じく施しつつ、亜鉛やマグネシウムなど他の成分配合を若干変えることで強度を多少抑え、量産性を向上させた合金です。
このA7075は、日本で開発された超々ジュラルミンを分析・参考にしてアメリカで生まれた合金とされています。そのため、日本ではA7075も含めて「超々ジュラルミン」と呼ばれることが多くなりました。
総じて、ジュラルミン(A2017)→超ジュラルミン(A2024)→超々ジュラルミン(A7075)という系譜で強度が向上してきました。
  • ジュラルミン(A2017) Al–4%Cu–0.5%Mg–0.5%Mn系合金。開発初期の高強度アルミ合金で、軽量かつ中程度の強度。
  • 超ジュラルミン(A2024) Al–4.5%Cu–1.5%Mg–0.6%Mn系合金。ジュラルミンよりCu・Mg添加量を増やして強度向上(約440 MPa)を実現。ただし耐食性は純粋なジュラルミンより低下。
  • 超々ジュラルミン(A7075) Al–Zn–Mg–Cu系合金(ZnやMgを高含有)。アルミ合金中最高クラスの強度(開発当時は約540–590 MPa)を持つが、耐食性・溶接性には課題。
いずれも高強度と軽量性を両立できるため航空機材に重用されましたが、銅や亜鉛を含むため腐食しやすく、使用環境に応じて防食処理(アルマイト処理など)が必要になる点も共通しています。
 
素材比重硬度(HB)引張強さ(Mpa)
ジュラルミン(A2017)2.79105425
超ジュラルミン(A2024)2.77120470
超々ジュラルミン(A7075)2.8160570

現代における「ジュラルミン」という言葉

現在のJIS規格では、「ジュラルミン」という名称は公式には使われていません。 ですが、製造業やデザインの現場では今でも「ジュラルミンっぽい色」や「ジュラルミンケース」などの言い回しが残っており、「ジュラルミン」という言葉自体は軽量・高剛性・高級感の象徴として製品イメージに用いられることもあります。 素材というよりイメージや雰囲気を表す言葉として生き続けている印象があります。
デザインや素材選定において、「ジュラルミン」という言葉を聞いたときには、具体的にどの番台・どの合金を指しているのかを明確にすることが大切です。

アルミは本当に“弱い”のか?

「アルミは軽いけど弱い」――そう思っている人は多いと思います。 これは自動販売機で手にするスチール缶とアルミ缶の手触りの差からかもしれません。 確かに純アルミ(1000番台)は柔らかく、構造材としては頼りない印象を受けることもあります。
しかし、合金化されたアルミ――たとえば2000番台(Al-Cu系)や7000番台(Al-Zn-Mg系)では、引張強度が鉄と同等かそれ以上のものも存在します。 特にA7075は「超ジュラルミン」とも呼ばれ、航空機や自転車・バイク・レーシング部品など、軽さと強さの両立が求められる場面で活躍しています。

同じ重さならアルミの方が“強い”という考え方

「強さ」は単なる素材の数値だけでは測れません。 実際の製品では「○○g以内に収めたい」といった重量制限の中で設計することもよくあります。
比重が軽いアルミは、同じ重さでも鉄より大きな体積を持たせることができます。 これは、断面積や構造の工夫によって形状による強度を大きく稼げるということです。
つまり、「同じ重さで比較すれば、アルミの方が“強く設計できる”」というケースも十分あり得ます。 この比強度(強度÷密度)の高さこそが、アルミが航空機やモビリティ分野で重宝されている理由の一つです。

軽さが設計の自由度を生む

アルミは“軽いからこそ”強度設計に工夫がしやすく、形状によって不足分を補いやすい素材です。 重量が限られる条件下では、強い素材を使うよりも軽くて太く設計できる素材の方が、結果的に性能が高くなることもあります。
たとえば、同じ板厚のフラットな板とリブ(補強)を加えた板では、曲げに対する強さがまったく異なります。また、中空構造や断面を工夫することで、重量を増やさずに剛性を高めることも可能です。
これは単に素材を変えるという話ではなく、「強さを素材に求めるか、形状でつくるか」という設計思想の違いにもつながります。「軽くて弱いからダメ」ではなく、「軽いからこそ形状で強さをつくる」。 アルミはその柔軟性を活かして、デザインと構造の両面で可能性を広げてくれる素材だと思います。
素材の強さだけでなく構造の強さも設計には重要

加工性と注意点

アルミは「加工しやすい金属」と言われることが多いですが、実際には合金の種類や加工方法によって性格が大きく異なります
ここでは、曲げ・切削・溶接・表面処理など、代表的な加工方法ごとに特徴と注意点をまとめます。

曲げ加工:バネ戻りと割れに注意

アルミ合金は展性・延性に優れており、曲げ加工もしやすい素材です。 ただし、鉄に比べてバネ戻りが大きく、設計寸法と実際の形状にズレが生じやすい傾向があります。 また、曲げRが小さすぎると割れやすいという特性もあるため、板厚に応じて十分なR寸法を設けることが必要です。このあたりは、鉄やステンレスとは異なる感覚が求められる部分です。

切削加工:チップ処理や面粗さに配慮が必要

6000番台や2000番台などの高強度合金は切削性にも優れており、精密な加工が可能です。
ただし、素材が柔らかい場合(純アルミや5000番台)では、切削時に刃物に素材が“溶けつく”ような現象(ビルドアップエッジ)が起こりやすく、刃物の選定や切削条件の工夫が必要です。
また、表面の仕上がり(面粗さ)にも影響が出やすいため、見た目重視の製品では加工後の表面処理もセットで検討することが多くなります。

溶接:種類によって向き・不向きあり

アルミの溶接性は合金によって大きく異なります。 たとえばA5052などの5000番台は比較的溶接しやすいですが、2000番台や7000番台は溶接に不向きで、ひび割れなどのトラブルが起きやすいため注意が必要です。 製品の設計段階で、溶接の有無・位置・方法(TIG溶接、MIG溶接など)まで見越した素材選定が重要になります。

表面処理:アルマイト処理は定番だが万能ではない

アルミの最大の特徴のひとつに酸化被膜による自然な防錆性がありますが、それだけでは十分でない場面も多く、実際には「アルマイト処理(陽極酸化処理)」が多く使われます。
アルマイト処理は、耐食性や外観向上に効果があり、カラーリングも可能なため、意匠面でも活用しやすい手法です。 ただし、合金の種類によって発色や処理の均一性に差が出ることもあるため、サンプルや試作での確認は欠かせません。

傷がつきやすい:見た目重視の製品では注意

アルミは表面が柔らかく、傷が目立ちやすい素材です。 特に5000番台などは、板材を加工する際や輸送時に小傷が入りやすく、製品の見た目に影響を与えることがあります。
そのため、意匠性を重視する場面では、保護フィルムの貼付や、加工後すぐの梱包・養生など、取り扱いにも一手間が求められます。

加工のしやすさ=扱いやすさ、ではない

アルミは加工性が高い素材である一方で、扱い方によっては注意点も多い素材です。 「柔らかさゆえの精度の出にくさ」や「傷への弱さ」「熱の影響」などは、見落とされやすい落とし穴とも言えます。
特に、デザインと製造を行き来するプロダクトデザイナーの立場では、メリットとリスクを天秤にかけながら素材を選び、加工工程まで含めた全体設計が求められます。

おわりに

アルミはその軽さや加工性から、非常に汎用性の高い素材ですが、用途によっては特性が裏目に出ることもあります。 合金の種類や加工方法による向き不向きを理解しておくことで、製品開発の自由度が大きく広がります。 他の素材との比較や、実際の選定方法については別記事「素材の選び方」で詳しく紹介予定です。 今回の記事が、アルミという素材に対する理解を深め、より適切な素材選定の助けになれば幸いです。