SPCC・SPHC・SECC・SGCCの特徴と使い分けをプロダクトデザイナー視点で解説

板金素材の違いと使い分け方

はじめに

板金材料を選ぶ際に、SPCCやSPHC、SECC、SGCCの違いを知っていますか?この記事では、プロダクトデザイナーとしての視点から、それぞれの特徴と使い分けのポイントをわかりやすく解説します。さらに、試作や量産時の具体的な選び方や注意点もご紹介。板金材料の基本を押さえることで、より適切な素材選びが可能になります。
プロダクトデザイナーの視点でCADについてもまとめております。
プロダクトデザイナー?と気になった方はこちらを御覧ください

SPCCとSPHCの比較 ~冷間圧延と熱間圧延~

SPCC(冷間圧延鋼板)

名称と意味:
SPCC = Steel Plate Cold Commercial
  • Steel Plate: 鋼板
  • Cold: 冷間圧延
  • Commercial: 汎用的な商業用途
現場ではミガキと言われる事が多いです。
特徴:
冷間圧延によって製造された鋼板で、寸法精度が高く加工性に優れています。
  • 表面が滑らかで精密
  • 耐食性が低く、錆び防止のため油が塗られています。
用途:
試作品や内部構造部品、自動車部品など、コストと加工性を重視する場面で使用されます。

SPHC(熱間圧延鋼板)

名称と意味:
SPHC = Steel Plate Hot Commercial
  • Steel Plate: 鋼板
  • Hot: 熱間圧延
  • Commercial: 汎用的な商業用途
特徴:
熱間圧延による鋼板で、厚みがあり加工性に優れ、構造材に向いています。
  • 表面は酸化スケールで覆われており、耐食性が低い
  • 柔らかく加工性が高い
用途:
SPCCとほぼ同じ用途で使用されます。 一般的に、薄い場合はSPCC、厚い場合はSPHCが使用されることが多いです。

冷間圧延と熱間圧延の比較

特徴冷間圧延(SPCC)熱間圧延(SPHC)
温度常温で加工高温(約900℃)で加工
表面仕上げ滑らかで精密酸化スケールが残る
寸法精度高い低い
加工性優れている柔らかく厚みのある加工が可能
主な用途試作、内部部品構造材、プレス加工部品

規格板厚と流通の注意点

SPCCとSPHCの規格板厚

材料名規格板厚主な流通板厚注意点
SPCC0.3mm ~ 3.2mm0.5mm ~ 2.3mm一部の薄い板厚は特殊仕様扱いになる場合がある
SPHC1.2mm ~ 14mm2.0mm ~ 12mm厚みのある板厚は取り寄せが必要なことも
規格上では幅広い板厚が設定されていますが、実際には流通していない板厚も多く存在します。特に特殊な厚みが必要な場合は事前に流通在庫を確認し、必要に応じて設計変更を検討することをおすすめします。

SECCとSGCCの耐食性と用途

SECC(電気亜鉛メッキ鋼板)

名称と意味:
SECC = Steel Electrogalvanized Cold Commercial
  • Steel: 鋼
  • Electrogalvanized: 電気亜鉛メッキ
  • Cold Commercial: 冷間圧延・商業用途
現場ではボンデと言われる事が多いです。
特徴:
SPCCに電気亜鉛メッキを施した鋼板です。
  • 耐食性が高く、錆びにくい
  • 表面が美しく、塗装性にも優れている
用途:
家電製品の外装、電子機器の筐体など、美観と耐食性が求められる製品に使用されます。

SGCC(溶融亜鉛メッキ鋼板)

名称と意味:
SGCC = Steel Galvanized Cold Commercial
  • Steel: 鋼
  • Galvanized: 溶融亜鉛メッキ
  • Cold Commercial: 冷間圧延・商業用途
現場ではガルバと言われる事が多いです。
特徴:
SGCCの大きな特徴は、「スパングル」と呼ばれる結晶模様です。この模様は溶融亜鉛メッキの際に自然に形成されるもので、独特の金属的な質感を持っています。一般的には耐食性を目的として選ばれる素材ですが、デザイン的な視点でも注目されています。
用途:
屋外環境での耐食性を求められる用途に適しており、屋根材や外装パネル、エアコンの室外機などに多く使用されます。
プロダクトデザイナーとしての使い方:
私自身の場合、SGCCを使用する際は耐食性よりもスパングル模様を求めて選ぶことが多いです。この独特の模様は、ハードな印象を与えたいデザインや、金属感を強調したい製品で特に効果を発揮します。

表面処理材を使用する時の注意点

表面処理材を使用する時の注意点
SECCとSGCCは、亜鉛で表面処理されているため、耐食性が高いです。しかし、カットや穴あけなどの加工を行うと、断面が露出します
この露出した断面から錆びが進行するという意見もあれば、亜鉛の犠牲防食作用によって鉄が保護されるため問題ないという意見もあります。
どちらが正しいかは一概には言えませんが、私の経験では、断面からの錆が問題になったことはありません。板金の断面は面積が小さいため、錆の影響が限定的なのかもしれません

SPCCとSECCの使い分け方(プロダクトデザイナーの視点)

試作時の選択

試作品の製造では、SPCCを使用することが圧倒的に多いです。試作は製品の検証や調整が目的であり、耐食性は通常それほど重要視されません。ただし、試作後にしばらく保管が必要な場合には、耐食性の高いSECCを使用することがあります。

量産時の選択

  • 塗装やメッキを予定している場合:
    • SPCCを使用します。塗装やメッキによる表面処理を行うため、元の素材に耐食性がなくても問題ありません。
  • 過酷な環境で使わない場合や内部パーツ:
    • SECCを選択します。この場合、SPCCを使って追加の表面処理を行う必要がないため、工程を短縮し、トータルコストを抑えることができます。

SPCC、SECC、SGCC、SPHCの比較表

以下に、各材料の特徴を比較した表を示します。それぞれの特性や用途を簡潔に理解するための参考にしてください。
材料名表面処理耐食性主な用途特徴
SPCC無し低い試作、内部構造部品加工性に優れ、寸法精度が高い
SECC電気亜鉛メッキ高い家電製品の外装、筐体耐食性が高く、美観が求められる製品に適用
SGCC溶融亜鉛メッキ非常に高い屋外製品、屋根材、外装パネル屋外環境に強く、スパングルが特徴的
SPHC無し(酸化スケール有)低い自動車部品、建築資材加工性が良く、構造材やプレス部品に最適

余談: Commercialの意味とニュアンス

SPCCやSECCなどの「Commercial」は、「商業的な」「汎用的な用途」を意味します。日本では「コマーシャル」といえばテレビCMを連想する方が多いですが、ここでは「幅広い製品に対応する一般的な素材」を指しています。

おわりに

SPCCとSPHCの製造方法の違いをはじめ、各材料の特徴や用途を解説しました。この記事は、プロダクトデザイナーの視点に基づく実務的な内容であり、デザイン業務に活用できる情報を提供することを目指しています。設計者とは異なる視点での材料選びに、少しでもお役に立てれば幸いです。
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